翌日。
俺、ミティ、ニム、マムで畑の整備にやってきた。
「ここに来るのも久しぶりだなあ」
俺たちが復旧作業をしたのは2か月ほど前だ。
俺とミティは2か月ぶりとなる。
ニムは、俺たちのパーティに加入してからは、冒険者活動が休みのときに様子を見に来ていたそうだ。
「そうですね。畑の状態は以前より良いみたいですね」
ミティがそう言う。
確かに、俺たちが作業したときよりも細部まで手入れが行き届いている。
「日々がんばって手入れしています。タカシさんのおかげで、私も元気に動けるようになりましたので」
マムがそう言う。
「そ、それでですね。畑の周りの柵が傷んできているのが気になっているのです」
「なるほど。確かに、傷んできていますね」
ニムの言葉を受けて、ミティがそう言う。
「よし。街で買っておいたこの木材で、柵をつくるか。……いや、待てよ?」
「ど、どうかしましたか?」
「ニムの土魔法で、塀や堀をつくることはできないのか?」
ニムの土魔法は、無から土をつくりだす魔法ではない。
付近にある土を固めて、ストーンショットとして放ったり、ロックアーマーとして体にまとったりする。
もともと土があったところは、少し凹む。
これを利用すれば、塀や堀をつくることも可能かもしれない。
「そ、その手がありましたね。やってみます」
ニムが土魔法の詠唱を開始する。
「……ロックアーマー」
土が盛り上がり、ニムの周りを覆っていく。
「……解除」
ニムがロックアーマーを解除する。
土の鎧がバラけて、崩れ落ちる。
「うん。いい感じじゃないか?」
もともと土があったところは、狙い通りに凹んでいる。
凹みをうまく繋げていけば、堀として使えるようになるだろう。
そして、この土の鎧の残骸を積み上げれば、塀もできあがる。
「すごいわねえ。ニム。いつの間にそんなことができるようになったの?」
マムが感嘆している。
ニムが魔法を使っているところを見るのは始めてなのかもしれない。
「タ、タカシさんと冒険者として活動しているうちに、できるようになったんだ」
「ニムちゃんは才能があります。いずれ、もっと高度な魔法も使えるようになるでしょう」
ニムと俺は、マムに対してそう言う。
「まあ、そうなのですか。ニムが足を引っ張っていないようで安心しました」
「足を引っ張るなど、とんでもない。立派な戦力として活躍してくれています」
「そうですね。ニムちゃんは頼りになる存在です!」
俺とミティはそう言う。
これは事実だ。
遠距離からのストーンレインと、近距離でのロックアーマー。
両面で彼女は活躍してくれている。
ミドルベア戦でも、彼女がいなければもっと苦戦していただろう。
パーティメンバーに重傷者も出ていたかもしれない。
「え、えへへ……」
俺とミティの言葉を受けて、ニムが照れくさそうにはにかむ。
「た、ただ、わたしのMP量では、1人で1周分の塀と堀をつくるのは難しそうです。時間もかかりますし」
ニムがそう言う。
もっとレベルが上がってMP関係のスキルを伸ばしていけば、いずれはそういうことも手早くできるようになるかもしれないが。
さすがに今はまだそこまではできないということか。
土魔法自体のレベルも関係しているかもしれない。
今回は、ロックアーマーをムリヤリ塀や堀づくりに転用している。
一度岩の鎧をつくり、それをただ解除しているわけだからな。
工程に無駄なところも多いだろう。
今回消費していくMPの内のいくらかは、本来は不要なはず。
彼女の土魔法をレベル4か5まで上げれば、塀や堀づくりにより適した魔法が使えるようになるかもしれない。
ここで、火魔法の傾向を整理してみよう。
レベル1はファイアーボールで、単体攻撃魔法。
レベル2はファイアーアローで、単体攻撃魔法。
レベル3はファイアートルネードで、範囲攻撃魔法。
レベル4はボルカニックフレイムで、単体攻撃魔法。
レベル5は火魔法創造。
土魔法の傾向を整理してみよう。
レベル1はストーンショットで、単体攻撃魔法。
レベル2はロックアーマーで、防御系魔法。
レベル3はストーンレインで、範囲攻撃魔法。
順当に考えると、土魔法レベル5で土魔法創造が使えるようになりそうな気がする。
サンプル数が少ないので確かなことは言えないが。
土魔法レベル4はどんな魔法だろうか。
ストーントルネード?
ビッグストーンショット?
もしかしたらゴーレム生成とかの可能性もある。
土魔法創造で塀や堀づくりに適した魔法を創造すれば、MP効率は向上し、作業時間は短縮されるだろう。
まあ、しばらくは先のことになるだろうが。
スキルポイントが足りないからな。
とりあえず、今日のところは魔法以外でカバーするしかないだろう。
「わかった。では、俺とミティが人力で手伝っていこう」
特にミティの豪腕があれば、塀や堀をつくることもさほど難しくないだろう。
「お任せください。むんっ!」
ミティもはりきってくれている。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます。私にできることがあれば何でも言ってくださいね」
ニムとマムがそう言う。
さっそく作業を開始する。
ニムは土魔法、俺とミティは人力で作業を進めていく。
マムはいろいろとサポートしてくれている。
……………………。
…………。
……。
黙々と作業を進める。
途中でリンゴを食べて休憩したりもした。
そして、数時間後。
「ふう。こんな感じでどうだろうか?」
無事に塀と堀ができあがった。
塀と堀が、畑をぐるっと一周している。
塀は高さ1m、幅1mほど。
堀は、深さ50cm、幅2mほど。
俺たちミリオンズの身体能力であれば、塀と堀を超えることも可能ではある。
同程度の身体能力を持つ冒険者や盗賊がいれば、侵入は許してしまうだろう。
しかし、大きな問題はない。
この塀と堀は、あくまで魔物対策だからな。
このあたりには、たまにファイティングドッグが出るぐらいだ。
やつの身体能力だと、この塀と堀を超えることは難しいだろう。
「大まかな形はいいと思います。細部を仕上げていきましょう」
「そ、そうですね」
ミティとニムがそう言って、各部の仕上げに取りかかる。
俺も仕上げを手伝うか。
いや、待てよ。
せっかく堀のために溝を掘ったが、肝心の水がはられていない。
俺の水魔法で水をはっていこう。
水魔法を発動し、堀に水を入れていく。
ペースは遅い。
今の俺は、水魔法はレベル1のウォータボールしか使えないからな。
出力が心もとない。
いずれは俺の水魔法を強化していきたいところだ。
新たなメンバーに水魔法を取得してもらうのもありだろう。
あるいは、既に水魔法を使えるリーゼロッテに加入してもらうか。
いずれにせよ、まだ先の話になる。
しばらく水魔法を発動し続ける。
MPは問題がないが、一度あたりの出力がやはり物足りない。
単純に時間がかかる。
そうこうしているうちに、ミティたちによる各部の仕上げが終わった。
俺の水はりのほうは、まだ3割ぐらい。
まあこれぐらいの水でも、ないよりはマシだろう。
後は雨に任せよう。
俺、ミティ、ニム、マム。
全員で、少し離れたところから塀と堀の完成具合を確認する。
「わああ……! す、すごいです!」
ニムが感嘆の声を漏らす。
もちろん彼女もいっしょに作業を進めてはいた。
しかし、完成後に少し離れたところから改めて見て、新たな感情が芽生えたのだろう。
「すばらしいですね。本当に、ありがとうございます」
「いえ。どういたしまして」
「お安い御用です。またいつでも言ってください」
マムのお礼の言葉に、俺とミティはそう答える。
この塀と堀があれば、安全に栽培業に専念することができるだろう。
マムも一安心だ。
ミリオンズの冒険者活動が休みの日は、ニムが手伝いに来ることももちろんできる。
ニムの栽培術はレベル2にまで伸ばしている。
今までよりも上手に野菜や果物などを育てることが可能だろう。
今までも十分においしかったが、それ以上においしい野菜や果物ができるということだ。
収穫した野菜や果物は、ラビット亭などの飲食店に卸される他、俺たちが購入することもあるだろう。
購入した野菜や果物は、モニカによって料理されることになる。
彼女の料理術はレベル4にまで伸ばしている。
既に一流の料理人だ。
これで、我が家の食事情は万全になったと言って過言ではない。
今後の食生活が楽しみだ。
こうして、ニムの畑の再整備は無事に終了した。
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