「うぅ……。はぁ、はぁ……！」

「――彼の者に安らかなる癒やしを。【リカバリー】」

　俺は治療魔法を行使する。

　すると、目の前で苦しんでいる少女の身体が淡く光った。

「はぁ、はぁ……。……ふぅ…………」

　彼女は苦しそうにしていた表情を和らげる。

　そして、穏やかに眠り始めた。

「これでよし……」

　俺は額の汗を拭う。

　もう何日目だろう？

　ラーグから強制的に連行された俺は、ハルク男爵という貴族の屋敷に軟禁されていた。

　目的は、彼の娘であるサリエ＝ハルクの治療だ。

「……今日の治療はここまでとなります」

　俺は近くで見張っている執事に声をかける。

　確か……名前はセルバスとかいったか。

　代々ハルク男爵家に仕えている執事らしい。

　彼の親戚には執事やメイドが何人もいて、ハルク男爵家の分家などに仕えているそうだ。

「この調子なら……数週間後には完治するかもしれません」

　俺はそう告げる。

　寝たきり状態のサリエ＝ハルク令嬢は、難病に侵されている。

　そこらの低級治療魔法使いやポーション類での回復は不可能だったらしい。

　そこで目を付けたのが、ラーグに突然現れた中級に治療魔法使い……。

　つまり俺だ。

　実際、成長系チート持ちの俺なら何とかなりそうな感じである。

　まだ中級までしか使えないので、一発で完治はできないのだが……。

　何度も繰り返し施していくことで、回復に向かっている。

　治療行為でも少しずつ経験値は蓄積されているので、そう遠くないうちにスキルポイントを消費して治療魔法を強化できるだろう。

　そうなれば、治療はさらに加速するはずだ。

「安心してください、執事さん。俺としても早く解放してもらいたいですし、全力で治療させていただきます」

　ハルク男爵からは、サリエ＝ハルク令嬢を治療できたら解放してやると言われている。

　市井の治療魔法使いを半ば拉致するようにして連れ出して、その言い草……。

　いかにも傲慢な貴族といった感じだが、意外にも執事やメイドたちからは嫌われていないようだ。

　それだけでなく、男爵領の住民からも慕われているらしい。

　よく分からないが……まあ、いい人なんだろう。

　俺に対して強引な手段に出たのは、娘であるサリエ=ハルク令嬢の治療を何よりも優先したから。

　そう考えれば、少し同情の余地もあるか……。

　巻き込まれた俺としては、たまったものじゃないがな。

「それでは、俺はこれで……。サリエ=ハルク令嬢の回復を祈っております」

　俺は頭を下げると、部屋から退室する。

　この屋敷において、俺は軟禁されている。

　監禁されているわけではないので、ある程度は自由に行動できるが……。

　勝手に外に出たりすれば、あの男爵からどんな仕打ちを受けるか分からない。

　今はおとなしくしている他ないだろう。

　俺はそんなことを思いながら、廊下を歩いていていくのだった。