海洋温泉の男湯に着いた。
さっそく服を脱ぎ、湯船に浸かり始める。
女湯は……。
幸か不幸か、少し離れたところにあるようだ。
男湯と隣り合ってはいない。
仕切りを登っての覗きはできないな。
ベアトリクス、ソフィア、アルカあたりの裸体を覗けないのは残念だ。
しかし同時に、安心感もある。
俺以外の男性陣が覗きを決行したら、ミティやアイリスたちの裸体が見られてしまうわけだからな。
そんなことを考えつつ、温泉を堪能する。
俺の隣にはジョージがいる。
「ところで、タカシ君のパーティメンバーは女性ばかりだね。みんなと、そういう関係なのかい?」
「そうですね。3人とは結婚済みです。1人とは婚約済みで……。さらに4人とは、結婚の話も持ち上がっていますね」
具体的には、ミティ、アイリス、モニカとは結婚済み。
ニムとは婚約済み。
ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテとは結婚話が持ち上がっている。
「へえ、すごいじゃないか! ハーレムというヤツだろう? 羨ましいよ!」
「ええ、まあ。俺にはもったいないぐらい魅力的な女性たちですよ」
俺に加護付与やステータス操作というチートスキルがなければ、相手にされていなかったかもしれない。
チートに溺れず、俺自身も成長していかないとな。
真っ当に努力している世の男性たちには少し申し訳ないが、今さら彼女たちを手放すつもりはない。
「そう言うジョージさんは、セニアさんとはどうなのです? 確か、結婚されているのでしたか」
「普段は振り回されっぱなしだけどね。あれで可愛いところもあるんだよ」
「へえ」
「特にベッドの上ではすごいぞ。……いや、少し話し過ぎたな」
ほう。
あの強い女性が、夜は乱れまくるのか。
妄想が捗る。
「夫婦仲がよろしいようで何よりです。子どもさんもいるのですか?」
「そうだ。私たちの本拠地に残してきている」
「それは……。やはり、冒険者の危険な旅には連れてこれないということですか。寂しいですね」
ミティが妊娠し出産したら、やはり子どもはラーグの街に置いていく必要があるか。
まあ、俺の場合は転移魔法があるからさほどの不便はないが。
「ああ。だが信頼できる者たちに預けているし、心配はないさ。それに、私たちの今回の目的も無事に果たせたからね。この街をあと数日堪能させてもらったら、帰るつもりさ」
「へえ。ところで、ジョージさんの目的とは何だったのです?」
「む? ……し、しまったぁ! タカシ君には、まだ伝えていなかった……!」
ジョージが焦った顔でそう言う。
「私としたことが、本命であるタカシ君を忘れているとは……。ウィリアム君、ソフィア君、マクセル君たちには声を掛けておいたのに……」
俺が本命で、次点がウィリアム、ソフィア、マクセル?
共通項は何だろう。
みんな特別表彰者で確かな実力を持つことは共通している。
しかしそれなら、シュタイン、ベアトリクス第三王女、イリアあたりもかなり強いはずだが。
「一言で言うなら、タカシ君を私たちの主が治める街に招待したいという話だ」
ジョージがそう言う。
「それはどうも。俺たちは冒険者として、いろいろな街を巡って見聞を広めたいと思っていました。歓迎してくれる街があるなら、優先的に訪れることにまったく問題はありません」
俺は、加護付与の候補者を探して30年後の世界滅亡の危機に備えるために活動している。
……正確に言えば、後28年半ほどだが。
モニカとリーゼロッテは世界各地の料理を体験したいはずだ。
アイリスは困っている人を助けて回りたいという気持ちを持っている。
ミティは俺の手伝い、ニムは金稼ぎ、ユナとマリアは旅行好き。
サリエは、治療魔法の研鑽という目的がある。
各自の熱意に多少の温度差はあるかもしれないが、基本的には世界各地を巡る方向性で問題ない。
「そうかい、よかったよ。私の主は、君たちのような若い世代にも期待しているんだ」
「ありがとうございます。それで、その場所はどこなのです?」
「そうか、それさえも伝えていなかったか。ああ、言おうとしたときにセニアに飛び蹴りをぶちかまされたのだった……」
ジョージが遠い目をしてそう言う。
選別試験の観戦中の話だな。
「私たちは、食王陛下が治める”食の都”グランツを本拠地にしている」
「ああ、あの有名な……」
モニカや彼女の父ダリウス、それにアドルフの兄貴やレオさんが言及していたことのある街だ。
その名の通り、おいしい料理やめずらしい料理を堪能できる街だと聞いている。
「私はそこで、新大陸南地域情勢調査部の責任者を務めていてね。基本的には部下からの報告をまとめて把握するのが役割だが、特に有望な新人が出たときにはこうして自分の目で確かめるのさ」
「有望な新人ですか」
「もちろん、タカシ君のことだよ。それに、さっきも言ったがウィリアム君、ソフィア君、マクセル君あたりにも注目している」
「それは嬉しいですね。シュタインやベアトリクス第三王女殿下も強いと思いますが?」
「彼らはルーキーではないからね。私たちの主は4年に一度、ギルド貢献値1億超えの超新星たちを集めて宴を開くのさ。タカシ君は、少し前にちょうど1億ガルを達成したね?」
「ええ。そうですね」
ラーグの街からソーマ騎士爵領への道中で、ゴブリンキングを討伐した。
さらに、領都リバーサイドでは領主のシュタインを聖魔法により浄化した。
そのあたりの功績が評価されて、1億ガルを達成したのだ。
「1億の大台を超えると、超新星として一目置かれることになる。私たちの主も、1億超えを基準にルーキーたちを集めているのさ」
「なるほど」
「ウィリアム君、ソフィア君、マクセル君たちは未達成だが、次の宴までに超えている可能性は十分にある。それに、私の見立てでは、タカシ君のパーティメンバーからもさらに数人出るかもしれないな。同一パーティ内に超新星が出るのは、かなりめずらしい。期待しているぞ」
「ありがとうございます。みんなでがんばります」
俺のステータス操作を活用すれば、みんなまだまだ上を目指せる。
それに、今回のアヴァロン迷宮攻略、ファイアードラゴンのテイム、ラスターレイン伯爵家の浄化などの功績により、ギルド貢献値は上がっているはずだ。
近いうちに冒険者ギルドを訪れてみよう。
「それで、その宴はいつ頃なのです?」
本場におけるおいしい料理はぜひ食べてみたい。
モニカも行きたがっていたしな。
前向きに検討する。
「まだ少し先だな。君はラーグの街近郊の領主だったね? 時期が近づけば、また手紙で連絡する。各地の冒険者ギルドにも通達するから、必ずしも街にずっと留まっている必要はないぞ」
「わかりました。楽しみにしています」
ジョージからのお誘いの話はこれでひと段落した。
俺たちは、それからも温泉を満喫していく。
……ん?
何やら、騒いでいる者たちがいる。
どうしたのだろう?
少し様子をうかがうことにしよう。
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