【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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1532話 漢闘地方・東都藩【モニカside】

公開日時: 2024年10月10日(木) 12:14
文字数:1,642

「おい、あれを見ろよ。すげぇ人だかりだ」


「中心にいるのは……兎獣人か? 確かに美人だが、騒ぐほどでもないような……」


「何かやってるのか?」


 街を歩く男たちが興味深そうに呟く。

 ここは大和連邦の漢闘地方、東都藩。

 その名の通り、大和連邦東部に位置する藩だ。


「さぁ、挑戦者は!? 私に勝ったら、この魚の丸焼きが無料だよ! 挑戦料は、1人5文!!」


 兎獣人の女性は、魚屋の店先で声を張り上げる。

 男たちの視線が彼女へと注がれた。


「なんか面白そうだな」


「『私に勝ったら』って……何で勝負するんだろうな? 大食いか?」


「分からん。だが、荒くれ者が多いこの街であんなことを言ったら……」


 男たちが呟く。

 ここ最近、大和連邦全体に下剋上ブームが起きていた。

 一部は沈静化し、一部は成功したものの前藩主の政策を模倣して……。

 なんやかんやで、大和連邦全体として大きな混乱は起きていない。


 しかし、この漢闘地方は違う。

 歴史的に肉弾戦を好む荒くれ者が多く、女王・将軍・神宮寺家あたりの権力や威光も及びにくい地域だ。

 そのためか、街では喧嘩が日常茶飯事。

 勝った者が正義、敗者は悪。

 そんな風潮が根強い土地だった。


「おい、姉ちゃん」


「ん? なに?」


「俺が相手だ」


 魚屋の店先で、兎獣人の女性にイカツイ男が対峙する。

 身長は男の方が高い。

 明らかに女性の倍は体重があるだろう。


「この街で『勝負』と言ったからには……覚悟できてんだろうな? 子どものお遊びみたいな勝負は認めねぇ。己の肉体のみを武器とした真剣な勝負だ!!」


 男が叫ぶ。

 どう見ても、女性を脅しつけているようにしか見えない。

 だが、女性は微塵も怯む様子を見せなかった。


「もちろん! 最初からそのつもりだし!!」


「……なに?」


 男の方が訝しむ。

 妙な商売をしている女を、少しばかり脅かしてやるだけのつもりだった。

 まさか、肉弾戦の勝負を本当にすることになるとは思っていなかったのだ。


「ふん、威勢の良い嬢ちゃんだな。俺が勝ったら、魚の丸焼き無料だけじゃ許さねぇ。嬢ちゃんの体を好き放題にして――」


「あ、そういうのいいから。早くかかってきなよ。こないならこっちから行くよ」


「な……!?」


「……あれ? もうおしまい?」


 兎獣人の女性は首を傾げる。

 直後、男は崩れ落ちた。

 どさりと音を立てて地面に倒れる。

 白目をむいて気絶していた。

 そんな男の姿を見て、周囲の野次馬がどよめく。


「な、なんだ今のは!?」


「おい、あのおっさんがいきなり倒れたぞ!」


「まさか、目にも止まらない一撃で倒したとでも言うのか!?」


「い、いったいどんな手品を!?」


 驚いているのは、男と同じようなタイミングで魚屋の前にやってきた野次馬たちだ。

 もっと早くから集まっていた野次馬は、すでに知っていたのだろう。

 女性の実力を。


「す、すげぇ……!」


「これで十人抜きだ!」


「この街に、あんな強者がいたとはな……」


「しかも、かなりの美人だ……」


 野次馬たちは感嘆する。

 そんな中、魚屋の店主がおずおずと口を開く。


「あの……百丹香さん?」


「ん?」


「うちの魚を美味しく調理して宣伝してくれるって話だったのに……このままでは冷めてしまいますが……」


「あ」


 兎獣人の女性は、今思い出したかのように呟いた。

 彼女の名前はモニカ。

 サザリアナ王国の出身で、この街では百丹香(もにか)という漢字をあてて名乗っている。


「ごめんごめん! ええっと……ほら! みんな起きて! 参加賞として、この丸焼きを10人で分けて食べていいから!!」


 モニカは叫ぶ。

 倒れていた10人の男たちは、それを聞いてかろうじて起き上がる。

 自らを一蹴した女性の手料理を恐る恐る口に運んでいく。

 そして……


「うう……うめぇ……! こんなの、生まれて初めて食った!!」


「ああ! この味は忘れられねぇ!!」


「ただの魚の丸焼きが……どうしてこんなに美味いんだ!?」


「俺、参加して良かった……」


 男たちの歓声が上がる。

 その目は、完全にモニカを崇めていた。

 こうして、モニカは『とても強い武闘家』兼『凄腕の料理人』として、街で有名な存在になっていくのだった。

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