俺はキサラに罰を与えた。
しかしその中で、彼女はまた新たな罪を告白した。
彼女は、日頃からリンが作ったクッキーを盗み食いしていたらしい。
これにはリンもご立腹だ。
「ふむ……。では、リンにもくすぐりに参加してもらうか……」
「ちょっ!? なんでそうなるんだよぉっ!!」
「だって、お前はリンが丹精込めて作ったクッキーを食べてしまったじゃないか」
「そ、それとこれとは別だろっ!?」
「まあ、確かに別だけど、同じことだよ。罪には罰が必要だ」
俺はキサラに淡々と告げていく。
キサラは観念した様子で、リンの方を見た。
その顔は、恐怖で歪んでいる。
「ふふふ……。覚悟して下さいねぇ……?」
「く、来るな! ガキが!!」
キサラは必死に抵抗するが、土魔法で作られたミニゴーレムによって拘束されている。
逃げることは出来ない。
「おいおい……。確かにキサラの方がリンより年上だけどさ。ハイブリッジ男爵家においては、リンの方が遥かに先輩なんだぞ? 言葉遣いには気を付けた方がいい」
リンは8歳、キサラは10代後半だ。
リンは、俺の実子であるミカたちを除けば、ハイブリッジ男爵家でトップクラスに若い。
だが、ハイブリッジ男爵家での勤務歴は、もうすぐで1年半になる。
対するキサラは、まだ働き始めていない。
俺と出会った日から起算しても、まだ1か月ちょいぐらいだ。
先輩であるリンに対する敬意は必要だろう。
実際、キサラと同じような新人のノノンは、先輩であるリンのことをしっかりと敬っている。
まぁ年齢や技能の差もあるので、キサラがリンに対してひれ伏して敬語を使うべきとまでは言わないが。
それでも『ガキ』呼ばわりはないと思う。
「そ、そんなこと言ってもよぉ……」
「ほほう? まだそんな口を利くのか?」
俺はニヤリと笑う。
そして、とっておきのアイテムをリンに手渡した。
さらにまったく同じものをもう一つ、俺は取り出す。
「これは何でしょうかぁ? お掃除道具……?」
「ああ、これはブラシだな。本来は、床や壁などを磨いたりするのに使うんだ。ちなみにこれは新品さ」
俺は説明する。
「はぁ……。これをどうするんですかぁ?」
「こうするのさ」
俺はキサラの背後に回り込む。
彼女は不安げに顔を動かすが、ミニゴーレムによってうつ伏せの姿勢で拘束されているので可動域には限界がある。
俺は無防備な足裏に視線を向け、足首にそっと手を添える。
「ふふ……。なかなかに細く、美しい足をしているな」
「なっ!? なにする気だてめぇ!!」
「くすぐりの続きだ。知ってるか? このブラシを使って、足の指の間を擦ると凄まじいくらいにくすぐったいんだぜ?」
「ひいいぃっ!? や、止めてくれ! 頼む!!」
キサラは涙を流しながら懇願してくる。
「そんなお願いを聞く義理はないが、慈悲深い俺はチャンスを与えよう。採掘場の面々、ノノン、リン……。お前が迷惑を掛けた者たちに対して、心の底からの謝罪を口にすれば許そう。さぁ、言うんだ!」
「わ、悪かった!! もう二度としません! ごめんなさい!!」
キサラは泣きながら謝る。
「よろしい。ならば、お前を許す」
「あ、ありがとうござい――ぎゃあっははは!! な、なんでぇ!!??」
キサラは感謝の言葉を言い終えることなく絶叫を上げる。
俺が彼女の足裏をブラシで擦り始めたからだ。
「いや、普通に許すとは言ったけど、くすぐるのを止めるとは言ってないからな?」
「ひぃっ! そ、そんな! 酷い! 酷すぎる! うひひぃっ!!」
「自業自得だろうが。この罰をちゃんと受け入れて反省しろよ?」
「うぅ……くっくく……ぎゃははぁ!! や、やめろぉ!!」
キサラは涙と鼻水を撒き散らしながら抵抗するが、ミニゴーレムの拘束を振りほどくことはできない。
「よし、それじゃあ次はリンの番だな」
俺はリンに声を掛けた。
「えっと……そのぉ……」
「どうした? 遠慮する必要はないぞ?」
「すごくくすぐったそうで……何だかかわいそうですぅ……」
「ははは。優しい子だな、リンは」
元盗賊の犯罪奴隷キサラ。
そんな彼女が立場をわきまえずに、俺やノノン、採掘場の面々に反抗的な態度を取り続けているのだ。
しかも、リンのお菓子を盗み食いしていたことまで発覚した。
本来であれば重い折檻を受けて当然な事態であるところ、優しい俺はくすぐり刑で許そうとしている。
しかし、心優しいリンはくすぐり刑ですらかわいそうだと言う。
その優しさは尊ぶべきものだと思うが――
「リンは一つ勘違いをしているな」
「え? 勘違いですかぁ?」
「ああ。これはキサラのためでもあるんだよ。犯罪奴隷が更生の意思を示さなかった場合、どうなるか分かるか?」
「ど、どうなるのですかぁ?」
「最終的には死刑となってしまうだろう。もちろん所有者――今回の場合は俺の意向で、ある程度は猶予を与えることができる。だが、いつまでも反抗的な態度を取り続けている犯罪奴隷は、処分しなければならない。甘やかしすぎると、逆に所有者の方が国から罰せられてしまうんだ」
「そうなんですねぇ……」
「だから、ここでキサラにちゃんと罰を与えて反省させることは大切なんだ。そうすれば、彼女は生き長らえることができる。所有者である俺も罰せられたりはせず、優れた労働力を手に入れることができる。理解できたかな?」
「はい。わかりましたぁ!」
リンは納得してくれたようだ。
「さて、お喋りはこの辺にして、そろそろ再開するとしようか」
俺は再びブラシを片手に持ち、もう片方の手でキサラの右足首を掴む。
「ひっ!? ま、待ってくれ! せめて優しくしてくれよぉ!!」
「もちろん優しくするとも。お前が間違っても死刑になんてならないよう、心を鬼にして罰を執行する。これが本当の優しさなんだ」
俺はゆっくりとブラシを動かし始める。
「ふふ……くひひ……」
キサラから笑い声が漏れる。
「よし、リンも参戦してくれ」
「はい! こ、こうですかぁ?」
リンの担当はキサラの左足だ。
彼女がブラシを無造作に当てる。
「んぐっ!? な、なにこれ!?!? は、激しすぎぃ!?!?」
俺とリンの同時攻撃。
俺たち二人のブラシ捌きは素人とは思えないほど洗練されており、キサラの足裏を蹂躙する。
「うひひひひひひひひぃぃ!!!! く、くすぐったいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
キサラは涙を流しながら悶絶する。
「リン、そこだ! そのまま一気に擦れ!」
「はい! こうですねぇ!」
「あぎゃあぁぁぁっ!!! うひひぃっ!!!」
リンのブラシが土踏まずを強く刺激すると、キサラが絶叫を上げた。
「リン、ナイスだ 今度は逆側を攻めるんだ!」
「はい! えいえい!」
「あぎゃああああっ!! だ、ダメだってばああああっ!!!」
キサラの右足の裏を、俺たちのブラシが容赦なく攻め立てる。
「くひひぃっ!! ひゃははははっ!!!」
キサラは涙を流しながら大声で笑う。
だが、それでも俺たちは手を止めない。
しばらくの間、温泉周辺にキサラの悲鳴が響き渡り続けたのだった。
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