空が、悲鳴を上げる。
鈍く濁った空の下、世界は息をひそめていた。
リーゼロッテの前に立ちはだかるのは、おうどん湯の巨麺兵。
その全身を編み上げるは、生きた麺だ。
しなやかに脈打ち、時折ピクリと震えるそれは、単なる兵器とは呼べぬ異様な生命感を放っている。
巨体が天を背に、雷鳴のごとき轟音とともに拳を振りかぶる。
その動きには、長き時を経て研ぎ澄まされた血統妖術の重みと風格が宿っていた。
「五重うどん拳・壱ノ型――『釜茹で正拳』ッ!!」
琉徳の怒号が空気を震わせる。
その声は意志を持った刃のように鋭く、濁流のように大気を貫いた。
麺で編まれた拳が、まるで巨大な鉄槌のように光を帯びる。
そして火花のような熱気とともに、揚げたての天ぷらを巻き込んで一気に振り下ろされた。
「くっ……!」
天ぷらの衣が舞い、蒸気が弾け、湿気を孕んだ空気が一瞬で焼ける。
音すら遅れて届くその破壊の瞬間、空間全体が悲鳴を上げた。
拳が炸裂音と共にグラキエス・うどんロボの肩を穿ち、氷の膜で覆われた天ぷら装甲が霧散する。
白く砕けた氷片が雪のように舞い、閃光に照らされて幻のように空に消えた。
「なっ……!? こ、これほどの威力とは……」
思わず漏れたリーゼロッテの息が、戦場の緊張をさらに引き締める。
彼女の瞳に映るのは、壊された肩部と、その奥で露わになった冷却コア。
機体のバランスを保つため、彼女は一歩、いや半歩だけ、後ずさる。
その仕草には、計算された動きではなく、生身の人間としての本能が色濃く滲んでいた。
だが、巨麺兵は隙を逃さない。
次の一撃は、既に風を裂いていた。
「弐ノ型――『つけめん乱舞』!」
麺で構成された拳が幾重にも重なる。
まるで麺の滝が逆流するかのように、怒涛の連打が空気を砕いて襲いかかった。
一本一本の麺がしなやかに、だが確かな硬度をもって宙を走り、それぞれが独立した意志を持っているかのように、正確無比な打撃を繰り出す。
その様はまさに技の嵐。
讃岐家伝来の血統妖術の粋を凝縮した連撃は、見惚れるほど美しいと同時に、戦場においては恐怖そのものであった。
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