俺はメルティーネに案内され、王城の客室に入った。
特殊な構造により、地上と同じような環境が再現されている部屋だ。
中のソファに、俺たちは向かい合うように座る。
「改めて言っておこう。メルティーネ、今日は本当にいい一日だったよ」
「はいですの。私も、ナイ様とご一緒できて楽しかったですの」
俺の言葉に、メルティーネが嬉しそうに答える。
彼女は少し逡巡してから、口を開いた。
「あの……。ナイ様は、これからどうなさるおつもりですの?」
「ヤマト連邦に向かうことになる」
俺は即答する。
メルティーネはうなずいた。
「やはり、そうなりますよね……。でも、どうしてヤマト連邦に?」
「それは……」
俺は少し考える。
メルティーネには、俺が与えられている使命を伝えていない。
超常の存在から与えられたミッションの件も、サザリアナ王国のネルエラ陛下から与えられた指令の件も……。
それに、俺がサザリアナ王国の貴族であることも伝えていないし、俺の本当の名前すら……。
「すまない。俺がなぜヤマト連邦に向かうのかは、言えないんだ。色々と込み入った事情があってな」
俺は素直に打ち明ける。
メルティーネを信頼していないわけではないのだが……。
「そう……ですか……」
彼女は残念そうな顔をする。
しかし、すぐに顔を上げた。
「なら、私もナイ様に同行させてほしいですの」
メルティーネは言う。
彼女の言葉には、どこか必死さが感じられた。
俺は少し驚いてから、彼女に尋ねる。
「それは……本気で言ってるのか?」
「はいですの」
メルティーネはうなずく。
その目は真剣だった。
しかし……。
「メルティーネ……。俺は、君をヤマト連邦に連れて行くつもりはない」
「!」
俺の言葉に、彼女はビクリと身を震わせる。
その目は見開かれていた。
「理由をお尋ねしても?」
震える声で、メルティーネは尋ねる。
俺は正直に答えることにした。
「ヤマト連邦という国がどんなところか、俺は知らない。そして、メルティーネも知らないだろう? そんな危険な場所に、メルティーネを連れて行きたくない」
「でも……。それでも私は……」
「ダメだ。百歩譲って、俺の領地なら構わないけどな。それでも、正式に国交を結んでからだ」
俺はメルティーネの言葉を遮る。
そんな俺の態度に、メルティーネは少しムッとしたようだった。
しかし、一拍遅れて彼女はハッとなる。
「もしかして、ナイ様は人族の国王ですの?」
メルティーネが質問する。
……俺の言葉のわずかな情報を見逃さないとは、やはり王女様だ。
のほほんとしているように見えて、鋭いところもある。
「俺はサザリアナ王国の国王ではない。だが、貴族ではある。男爵って言ってな……。ぼちぼちぐらいの地位だが」
俺は答えた。
メルティーネは意外そうな顔になる。
「大英雄のナイ様でも、大貴族ではありませんの? 人族にはそれほどの強者たちが……?」
メルティーネはブツブツとつぶやき始める。
……いかんな。
謙遜は美徳のはずだが、時には害となることもあるらしい。
人族に関する誤った情報が広まる前に、訂正しておくことにしよう。
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