「はぁっ!」
無月がクナイを投擲する。
俺はその全てを刀で叩き落とした。
「ふっ!」
俺は刀を振るう。
しかし、無月には避けられてしまった。
彼女は身軽な動きで俺から距離を取る。
「逃がさん」
俺は無月に迫り、居合切りを放つ。
しかし、それも避けられてしまった。
そのまま、俺たちは激しく交戦する。
「ちいっ……!」
俺は舌打ちした。
やはり、無月は強い。
身体能力もさることながら、彼女の技術はかなりのものだ。
俺も刀を振ったが、その全てを見切られている。
「どうした? 手詰まりのようだな」
無月が笑みを浮かべる。
確かに彼女の言う通り、俺は攻めあぐねていた。
このままではジリ貧だ。
「くくっ! さらに絶望的な情報を教えてやろう」
「絶望的な情報……?」
「雷轟殿は、老若男女の誰が相手でも発奮する変態だ」
「何……?」
俺は眉をひそめる。
こいつの言葉は真実なのか?
「武神流の跡取り娘……まだ幼い故、普通の男ならば食指は動かんだろう。だが、あやつならば話は別だ」
「つまり……」
「娘の身柄を確保した今、いつ手籠めにしていてもおかしくないということだ。ひょっとすると、今頃は……」
「……」
俺は沈黙する。
無月の言葉の真偽は分からないが、それが真実だった場合……。
桔梗の貞操が危ない!
「うおおおっ!」
俺は刀を振りかぶった。
しかし、その攻撃は避けられてしまう。
「そんな荒い攻撃では、俺を倒せん」
無月はクナイを構える。
そして、俺に向かって投擲してきた。
「くっ……!」
俺は刀でクナイを弾き飛ばす。
その隙に無月が距離を詰めてきた。
彼女は俺の懐に入り込み、クナイを突き出す。
それは俺の腹に深々と刺さった。
「終わりだ!」
無月が勝利を確信する。
しかし、それは早計だ。
俺は彼女の腕を掴むと、そのまま地面に組み伏せた。
「な、何だと!? どこからこんな力が……! 腹の傷は、確かに致命傷のはず!!」
無月が叫ぶ。
俺は構わず彼女を組み伏せたまま、その首元を締めあげた。
「悪いな。俺は治療妖術を使えるんでね。これぐらいの傷、どうってことないのさ。迂闊に近づいてきたのがお前の敗因だ」
「そ、そんな……! がっ……! ぐああっ……!!」
無月は苦悶の表情を浮かべる。
彼女は俺を跳ね飛ばそうと、もがいた。
しかし、俺の腕力の方が上だ。
「これで終わりだ」
俺は無月の耳元で囁く。
そして、そのまま力を込めた。
「がっ……!」
無月の体がビクンと跳ねる。
彼女は意識を失ったようだ。
俺はゆっくりと手を離す。
すると、彼女は地面に倒れ伏した。
「……これでいい。敵とはいえ、格下を無闇に殺す必要はない……。流華に忍びの術を教えてもらうのもアリだろう。だから落ち着け、俺……」
俺は深呼吸する。
心の中に、荒ぶる黒い衝動が湧き上がってくる。
それを必死に抑えながら、俺はその場を去ろうとした。
そのときだった。
ドスッ!
俺の背後で、何かの物音が聞こえてきたのだった。
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