「第4試合を始めます! ルビアナ道場のジルガ選手対、武闘神官見習いのアイリス選手!」
次はアイリスの試合だ。
「アイリス、健闘を祈ってるよ」
「がんばってください! アイリスさん!」
「ありがとう。全力を尽くすよ。ミティが勝ったんだから、きっとボクだって……!」
アイリスが意気込みながらステージに上がる。
気合十分だ。
一方、ジルガがポージングをしながらステージに上がる。
サイドチェストだ。
アイリスとジルガには体格差がある。
ぱっと見の印象だと、アイリスの勝ち目は薄そうに見えるが。
どうなるか。
優勝予想の倍率は、ジルガが4倍に対して、アイリスが15倍だ。
観客の評価でもジルガが圧倒的に優勢。
実績による信頼感の差だろう。
ジルガは先月の小規模大会で準優勝した。
例年のガルハード杯でもベスト4常連という情報もある。
対して、アイリスは予選からの出場。
見習いという肩書も、少し頼りない印象を受ける。
身体能力に加えて、技術や闘気術のレベルが試合にどう影響するか。
見どころだ。
「両者構えて、……始め!」
試合が始まった。
ジルガは攻撃型の選手だ。
身体能力と闘気術を活かして、ぐいぐい攻めている。
対してアイリスは技術に秀でた受け流し型の選手だ。
闘気術で身体能力を向上させつつ、技術でうまく攻撃をしのいでいる。
隙をついて反撃もしている。
「裂空脚!」
「ぬっ!? ……ガハハ! 効かん!」
「それならこれは! 砲撃連拳!」
「ぐうう!! なかなかやりおる!」
ワイルドキャットを相手に無双していたアイリスの大技だが、ジルガにはあまり効いていないようだ。
技術だけならアイリスが優勢だが、身体能力や闘気術はジルガが上手か。
徐々にジルガのペースになっていく。
少しずつだが、アイリスにダメージが蓄積していく。
「くっ。このままではジリ貧か……。こうなれば奥の手を……」
アイリスの雰囲気が変わった。
「右手に闘……」
「スキあり!」
「きゃあっ」
アイリスが何やら技名を唱え始めたところで、ジルガのパンチがクリーンヒットした。
おい。
空気を読んでくれよ。
今、明らかに何かしかけようとしてたじゃないか。
「試合中にスキを見せるのが悪いのだ! ガハハ!」
ジルガのパンチにより弾き飛ばされたアイリスは、何とか立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ボクの奥の手が……」
そうだそうだ。
ちょっとぐらい待ってくれよ。
観客席からも一部からブーイングが起きている。
「ぬ? 仕方ない。待ってやろう」
「じゃあ気を取り直して。……右手に闘気、左手に聖気」
アイリスの闘気が変質した。
俺も初めて見る技だ。
「聖闘気、豪の型」
「ガハハ! もういいか? いったい何が変わったんだ?」
「闘えばわかる。いくよ!」
闘いが再開される。
「聖ミリアリア流奥義、豪・裂空脚!」
「む? ぐおぉっ!?」
アイリスの回し蹴りだ。
ジルガはガードするが、先ほどまでとは違い、小さくないダメージを負ったようだ。
「なるほど。パワーが格段に上がってやがる」
ジルガが感心したように言う。
「2回戦以降のために闘気を温存している場合じゃないようだな。俺も本気でいくぜ! はあぁっ!」
ジルガの闘気量が上がった。
彼も本気だ。
アイリスとジルガの第2ラウンドだ。
闘いはより一層激しさを増す。
互角の闘いが続く。
「これで決めるよ! 聖ミリアリア流奥義……」
「負けねえぜ! 剛拳流奥義……」
アイリスとジルガが互いに近寄っていく。
「豪・砲撃連拳!」
「ギガントナックル!」
大技同士の衝突だ。
衝撃がこちらにまで伝わってくる。
数秒後。
立っていたのは、ジルガだった。
かなりのダメージを負っているが、自力で立っている。
アイリスは倒れ込み、立ち上がらない。
「そこまで! 勝者ジルガ選手!」
治療術師が2人に駆け寄り、治療魔法をかける。
治療を受けて、アイリスは無事に立ち上がった。
ジルガも、ダメージから回復した様子だ。
「ガハハ! 明日の試合もいただきだ!」
ジルガ、もう少し敗者に気を遣ってくれてもいいんだぞ?
アイリスが落ち込んでいるじゃないか。
彼女が控室までトボトボと帰ってくる。
名探偵ピ◯チュウのあのシーンみたいな雰囲気だ。
「レベルが高いのは知っていたけど、1回戦負けなんて……。このままじゃいつまでたってもメイビス姉さんに追いつけない……」
何やらガチでしょんぼりしている。
大丈夫か?
「アイリス、どんまい! 俺も1回戦負けだ! この大会はレベルが高いな!」
「アイリスさんは強かったです。相手が強すぎました」
俺とミティで慰めの声をかける。
「……訓練を始めて1か月やそこらの2人といっしょにしないでよ。ボクは本国でもずっと訓練してたんだ!」
アイリスはそう言って控室から出ていってしまった。
俺はいざとなればチートを使える前提があるから、武闘を学ぶ姿勢が軽い。
残念ながら、ちゃんと真剣に学んできたアイリスの気持ちが俺にはわからない。
時間が彼女の心を癒やしてくれるのを待つしかないか。
エドワードがこちらに近づいてくる。
彼が口を開く。
「しばらくそっとしておいてやってくれないか。彼女には、ガルハード杯のレベルの高さは伝えておいたのだが。ミティ君が勝ったのを見て、自分の勝利にも期待してしまったんだろう」
アイリスの上司のエドワードもこう言っていることだし、しばらく1人にしておこう。
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