「次は樹影だ。出てこい」
「……はい」
俺が名を呼ぶと、樹影は上座に上がってくる。
いかにも渋々といった様子だ。
まぁ、それはそうだろう。
彼女は前藩主の時代から桜花七侍を務めている。
その忠誠度は高いし、影響力もそれ相応に大きい。
今代の七侍でも、夜叉丸、蒼天、巨魁の3人は実質的に彼女の部下のような立ち位置だった。
俺が桜花城最上階の天守閣に突入した際にも、景春のすぐそばにいたのは樹影だ。
俺に従うことに、かなりの抵抗感を持っているのは当然と言える。
実際、七侍の中で懐柔が特に難航したのが彼女だった。
「樹影、お前にも俺に従ってもらうぞ。いいな?」
「私は……。いえ、もちろんでございます」
一瞬、反論しそうになるが、すぐにそれを押し殺す。
そんな樹影の態度を見て、家臣団の一部が色めき立った。
(最後の頼みの綱が……)
(もう、桜花藩は奴に逆らえないのか……)
そんな声がちらほらと聞こえてくる。
文句があるなら、いつでもかかって来い。
そう言いたい気分だが、今はやめておこう。
なにせ、次はいよいよ本命の出番だ。
「さて、最後は前藩主だ。景春……今の気持ちはどうだね?」
「…………」
俺は景春に問いかける。
この戦犯審議会……。
前藩主である景春の処遇が、最も重要な議題だ。
「くっくっく。哀れなものだな。かつての配下たちに見限られた気分はどうなのだ?」
「……」
景春は答えない。
ただ、じっと下を見ているだけだ。
俺の魔力によって彼の妖術は半封印状態にあるため、突然暴れ出すことはないだろうが……。
ダンマリというのは扱いにくい。
「何か言うことはないのかな? それとも、もう言葉も忘れてしまったか?」
俺は挑発するように問いかける。
景春は15歳ぐらいの少年だが、その戦闘能力や影響力は侮れない。
そのため、俺が謀反を成功させたあとは、ずっと監禁して生活させてきた。
精神的に摩耗してしまっているのかもしれない。
それならそれで、話は早いが……。
「ふん……っ」
景春が鼻を鳴らした。
お?
やっと反応を見せたな。
「貴様、随分とご機嫌らしいな? しかし、甘いぞ。謀反者たる貴様に心から従う奴など、いるものか」
「……なんだと?」
景春が立ち上がり、俺の目を見て言う。
こいつ……俺を挑発してきやがった。
現実が見えていないのか?
……いや、必ずしもそうではないか。
事実、面従腹背で俺への協力を約束しているだけの家臣もいるからな。
何にせよ、たくさんの家臣がいる前で挑発されて黙っているわけにはいかない。
心苦しいが、やはり『あの作戦』を実行する方向で進めていこう。
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