1週間ほどが経過した。
合同結婚式が迫ってきている。
この世界は交通網がそれほど発達していない。
そのため、各所から人が移動する場合は、基本的に徒歩か馬車による移動となる。
そんな中でもごく一部の王族や貴族は、特別な移動手段を持つ。
例えば、空間魔法レベル3の転移魔法。
これは、自分のMP量や魔力量に応じた距離しか飛べないが、瞬時に離れた場所に移動することができる魔法だ。
ただし、目的地にも転移魔法陣を作成しておく必要があるため、初めて行く場所には使えない。
また、空を飛ぶ魔法や魔道具もある。
重力魔法や、『魔法の絨毯』のようなアイテムを使ったりするのだ。
重力魔法は希少だし、魔道具も高価だ。
一般庶民が使うことはない。
使うとすれば、前述した通り王族や貴族だ。
だが、それでも当たり前のように使うというわけでもない。
王族や貴族の移動には護衛がたくさん必要だ。
出力の関係で一度に運べる人数が限られている重力魔法や魔道具は、移動に適さないのだ。
そんな事情もあり、一般の人たちも王侯貴族たちも、遠方へ向かう場合は基本的に馬車での移動となる。
当然、時間は掛かるし、予期せぬアクシデントによりさらに時間が掛かる可能性もある。
そのため、何か約束事を行う際には日時に幅を持たせることが多い。
関係者各位を一同に集めて行うようなイベントでは、各参加者は早めに会場がある街に入って待機しておくことが一般的だ。
「おお! 久しぶりだな! タカシ!」
「お久しぶりです。バルダイン陛下」
俺はハガ王国の国王を出迎える。
国境を隔てた移動ということもあり、ずいぶんと余裕を持って出発してくれたようだな。
招待した関係各位の中でも一番乗りだ。
「道中に危険はございませんでしたか?」
「うむ! タカシに治してもらった足が絶好調でな。魔物は出たが、今の我の敵ではない」
バルダインの言う通り、俺は以前彼の足を治療した。
今の彼は、『疾風のバルダイン』の二つ名で呼ばれていた全盛期の力を取り戻している。
その上、加護(小)の恩恵もある。
もしかすると、全盛期よりも強いかもしれない。
一応の護衛は連れてきているが、彼よりも強い者はいないだろう。
「ふふ。マリアもついに結婚するのね。幸せになりなさい」
「うんっ! でも、マリアは今でも幸せだよっ! ママ」
ナスタシアとマリアが嬉しそうにそう言う。
「タカシよ。改めて、妹のことを頼んだぞ」
「ああ。任せておけ、バルザック。……いや、バルザック兄さん」
「おう。お前が義理の弟になるとはな。まぁ、頼りにしているぜ」
俺の言葉に、バルザックがそう言ってニヤリと笑う。
今回の結婚式では、彼らは新婦マリアの親族として出席することになっている。
また、もちろん彼ら王族だけで移動してきたわけではない。
護衛の兵士たちが何人も同行している。
その隊長格は……。
「マリア様は、一段とご成長されたようだな。それにタカシ殿とご一緒だからもう安心だ」
「ええ。それに、ハガ王国とサザリアナ王国の友誼は確固たるものになるわ。こちらの国の国王陛下も祝福されているそうだし」
ハーピィの男女、”鑑定”のディークと”牽制”のフェイである。
相変わらず、彼らが六武衆の中でも上位の役割を果たしているようだ。
しかし、1つだけ以前と違う点がある。
「お前たちも、久しぶりだな。しかし、それはどうしたんだ?」
俺はそう言って、フェイのお腹の辺りを見やる。
そこには、赤ちゃんが宿っていることを示す膨らみがあった。
「あ~、これ? 私たちも結婚したのよ」
「タイミングが合わず、タカシ殿には報告できていなかったな」
フェイとディークがそう説明する。
「そうだったのか。おめでとう。お似合いだぞ」
結婚式に呼ばれなかったのは少し残念だ。
忠義度も地味に30台を突破しているし、そこそこの親交はあるのだが。
まあ、彼らとは友人として仲がいいというよりは、かつて俺がハガ王国の問題を解決するために奔走したことに対する感謝の念を抱かれている感じだ。
俺の転移魔法を抜きに考えれば気軽に行き来できる距離でもないし、タイミングが合わず結婚式に招待されなかったのは仕方ないと言えるだろう。
ちなみに、王妃ナスタシア、王子バルザック、六武衆のディークとフェイは、それぞれ俺の加護(微)の対象となっている。
俺はサザリアナ王国の騎士爵を授かっているので、あまり他国の者を強化するのは良くない気もする。
しかし、加護(微)は自動で適応されてしまうので仕方がない。
それに、そもそもさほど大きな問題もないだろう。
サザリアナ王国とハガ王国は友好的な関係を築いている。
今は闇の瘴気の対策もいくつかできているし、この2国の関係は今後も安泰だと思われる。
「うむ。マリアの結婚は喜ばしい。して、そちらの者たちは?」
バルダインが、今度はサリエやリーゼロッテたちに視線を向ける。
「お初にお目に掛かります。私はサリエ=ハルクと申します。バルダイン陛下のことは、マリアさんからよく聞いております。よろしくお願いいたします」
「初めまして。わたくしはリーゼロッテ=ラスターレインですわ。以後お見知りおきくださいませ」
サリエとリーゼロッテが丁寧な挨拶をする。
サリエはともかく、リーゼロッテがここまで丁寧な対応をするとは。
やはり貴族として教育を受けてきただけある。
普段はのんびりとした態度だが、やるときはやるのだ。
「おお! お主たちが、マリアと合同で式を挙げる者たちか!」
「ふふ。それに、そちらのお嬢さんたちもそうなのね? マリアをよろしく頼みますわ」
バルダインとナスタシアがそう言う。
「マ、マリアちゃんのことは任せてください」
「ふふん。彼女は今やハイブリッジ家になくてはならない存在だし、心配は不要よ! ……です」
ニムとユナがそう言う。
そんな感じで、合同結婚式に向けてまずはマリアの関係者がラーグの街に入ったのだった。
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