俺は不良集団『海神の怒り』を追い払った。
侍女リマも、これでひと安心だろう。
「ナイト様! お怪我はありませんか?」
リマが心配そうに言う。
彼女は先ほどから落ち着きがない。
そんな彼女の姿を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「リマは優しいな」
俺の言葉に、彼女はキョトンとした表情になる。
そんな表情も可愛い。
「えっ? どうしてそう思うのですか?」
「だってそうだろう? 自分も怪我をしているのに、俺の心配をしてくれている。優しい証拠じゃないか」
俺はそう告げる。
彼女は先ほど、『海神の怒り』の男に突き飛ばされていた。
その際に、少し体を擦りむいていたのだ。
「これぐらい平気です。わたしなんかよりも、ナイト様がお怪我をされた方が大変ですから!」
そう言って、リマは微笑む。
俺は彼女の言葉を受けて――
「ありがとう。しかし、それは俺のセリフだよ。俺のことよりもリマのことが大事だ」
俺は彼女に笑いかける。
彼女は俺に優しくしてくれたのだ。
そんな女の子に傷など負わせたくはなかった。
「さぁ、傷口を見せてくれ」
「え? 何を……」
「治療魔法だよ。傷を治療してあげるから」
「えっと……。ナイト様には『魔封じの枷』が……」
「問題ない」
俺は『魔封じの枷』に魔力を流し込み、力ずくで破壊する。
バキンッ!!
そんな音と共に、右手の枷が砕け散った。
「うそ……!?」
驚くリマ。
そんな彼女の前で、俺は魔法を唱える。
「治癒の光よ……」
俺の右手から光が溢れ出す。
その光はリマの傷を優しく包み込んだ。
リマの傷がみるみる塞がっていく。
「ナイト様……!?」
「これでよしと……」
俺は治療魔法を止めた。
俺の両足や左手には、まだ『魔封じの枷』が装着されている。
しかし、簡単な治療魔法ぐらいならば右手が解放された分の魔力だけでも十分だ。
「こ、拘束が……。治療魔法が……。こ、こんなことが……」
リマは俺の右手と顔を交互に見つめる。
先ほどは『闘気封印の縄』も弾き飛ばしたし、これで俺の右手はフリーだ。
限定的な闘気だけで『海神の怒り』を一蹴し、限定的な魔力だけで治療魔法を発動させた。
彼女から見て、俺は得体の知れない存在になりつつあるのかもしれない。
俺はそんな彼女に言う。
「心配するな。別に、暴れるつもりはない。この程度の拘束など、俺にとって無意味。ただそれだけのことだ」
俺は肩をすくめる。
そんな俺にリマは……
「ナイト様……。あなたはいったい……」
彼女はそれ以上言葉を続けられない様子だった。
いや、何と言っていいのか分からないのだろう。
「俺は通りすがりの人族さ。別に、人魚の里をどうこうするつもりはない。リマの傷が治ったのなら、とりあえずは満足だよ」
「え、えっと……。その……。あ、ありがとうございます!」
リマはぺこりと頭を下げた。
「礼なんて必要ないさ」
俺は笑う。
リマは少し照れている様子だ。
そんな様子を見て、俺もまた微笑ましい気持ちになった。
「リマは本当に優しいな。それに、聡明で思慮深い」
俺は改めて言う。
彼女は先ほど、男たちから俺を助けてくれた。
彼女のような子なら信頼できる。
いや……人魚族全体に対して信頼を寄せることができるだろう。
「そ、そんなことはありません!」
「いいや、そんなことがあるさ。だってそうだろう? 人族と人魚族の過去について、知らないわけではあるまい。それなのに、人族である俺に優しくしてくれるんだ。君は優しい子だよ」
「そ、そんな……。わたしは別に……」
リマは顔を赤くしている。
その反応はとても可愛い。
「わたしは単に、過去を詳しく知らないだけなのです」
「ん? どういうことだ?」
「この里において、人族から最後に被害を受けたのは30年以上前と聞いています。ここ最近は、海上で人族に見つかって会話を試みられることはあっても、危害を加えられることはなかったそうです」
「そうなのか?」
俺の質問に、リマは頷いた。
「はい。そのため、姫様を筆頭に『人族はそれほど危険な種族ではないのではないか』という声が強まってきています。そしてそれは、わたしのような子どもへの教育内容にも影響を与えています」
「ふむ……」
なかなか興味深い話だ。
詳しく聞いてみることにしよう。
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