「お前……」
俺は絶句する。
無月の肉体には、ぴっちりとした黒装束がまとわついていた。
しかし、その肉体は女性のものにしか見えない。
そう……無月の正体は女だったのだ。
「お前……男じゃなかったのか……?」
俺は呆然と呟く。
彼……いや、彼女の一人称は『俺』だった。
男だと思って疑わなかったのだが……。
まさか女だったとはな。
「ふん、忍びにとって性別など些細なこと。何か問題でもあるか?」
「いや、別に」
俺は首を横に振る。
今は、武神流や雷鳴流を巡る政治闘争の最中である。
彼女の言う通り、性別は些細なことだろう。
しかし、言葉とは裏腹に俺の視線は彼女の肉体へ釘付けとなっていた。
「ちっ、どこを見ている」
無月が舌打ちする。
その体は細身だが胸は大きく、腰回りも引き締まっていた。
艶めかしい曲線を描く肢体。
その美しさに、俺は目を奪われてしまう。
「いや、見事な視線誘導術だ。さすがは桜花七侍といったところか。感心するよ」
「ふん、戯言を……」
無月は不快そうに呟く。
そんな彼女の肉体を見て、俺はあることを思いついた。
「無月と言ったな? お前、俺の女にならないか?」
「は……?」
無月が目を丸くする。
そんな彼女に、俺は説明を始めたのだった。
「な、何を言っている? 貴様……」
「そのままの意味だ。お前、俺の女にならないか? 俺の子を産み、平穏に暮らすことに興味はないか?」
俺は言う。
無月の肉体は素晴らしい。
その美しさを俺だけのものにしてしまいたい……。
そんな欲望が、俺の中に渦巻いていた。
「お、愚か者……! この俺が貴様の女になるだと……!? そんなふざけた話があってたまるか!」
無月は激昂している。
だが、その反応も無理はない。
いきなり『自分の女にならないか?』と言われたら、誰だって戸惑うことだろう。
「なら、力づくで俺の女にするしかないか」
俺は刀を構える。
無月もクナイを構えた。
戦闘は避けられないようだ。
「貴様がそんな戯言をほざくのも、俺の力を知らぬからだろう……。万が一、俺を屈服させられたら、その時は考えてやってもいい」
「ふむ……」
俺は無月を観察する。
体は引き締まっており、無駄な肉はついていない。
素早さに特化したタイプだろう。
桜花七侍に任じられている以上、確かな実力を持つはずだ。
金剛という大男とも対等にやり取りしていたしな。
「お前ほどの手練れを屈服させる……。殺さず、お前が納得するだけの力を示せと……。『飛車角落ち』といったところか」
俺は呟く。
飛車角落ちとは、将棋の用語だ。
実力の低い相手を手加減して相手することを表す言葉である。
かなりの無理難題だ。
しかし、彼女の肉体にはそれだけの価値がある。
「まぁ……すぐに詰んでやろう」
俺は刀を構える。
そして、無月に対して悠然と構えるのだった。
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