大掃討作戦が始まって、数時間が経過した。
今回の作戦に参加している冒険者は三十人を超える。
だが、全員で一箇所にまとまって行動するわけではない。
まとまればまとまるほど安全度は増すが、代わりに狩りの効率が落ちるからだ。
とはいえ、完全に自由行動にしたら同士討ちのリスクが高まってしまう。
それに、そもそも日にちを合わせて狩りを行う意味が薄まってしまう。
というわけで、各参加者は適度にバラけて狩りをしている感じだ。
事前に、各パーティの担当区域も決めている。
EランクやDランク下位のパーティは、森の比較的浅い部分を担当してもらっている。
少数のゴブリンや単独のハウンドウルフが主なターゲットだ。
逆に、Dランク上位やCランクの冒険者には、より深い森の中に入ってもらうことになる。
この作戦の指揮官である俺は、そういった上位陣に同行している。
「斬魔一刀流……火炎斬!!」
「うおおおぉっ! どりゃあ!!」
「影の刃――【シャドウエッジ】!」
「「「ギャアアアァッ!!!」」」
アラン、トミー、月の攻撃を受け、ゴブリンたちが悲鳴を上げて倒れていく。
それぞれのパーティメンバーも奮闘している。
やはり、彼らの実力は安定しているな。
中でも、アランの成長は目覚ましい。
彼は、俺の得意剣術である『斬魔一刀流』を使いこなしつつある。
『火炎斬』はその中でも初歩であり、その後は『獄炎斬』『魔皇炎斬』へと至っていく。
彼の現時点におけるランクはDだが、今回の作戦が無事に終わればCランクも見えてくるだろう。
俺が『火炎斬』を練習していたのもDランクの頃で、実戦で習得に成功してからすぐにCランクに昇格した。
トミーの実力も高い。
彼は、ラスターレイン伯爵領の一件があった頃からCランクで、今もCランクのままだ。
一つの限界点に達しているような形だが、加護(小)の条件さえ見たせばその限界を突破することも可能だろう。
そうなれば、Bランクも見えてくるはずだ。
月はどうか?
三姉妹の雪、月、花は、それぞれの個人ランクがCで、パーティランクも同じくCだ。
雪と花が1か月ほど前に加護(小)の条件を満たしたことにより、その実力は大きく増した。
彼女たち二人は、近い内にBランクに達してもおかしくない。
それに比べ、月は一歩劣ってしまっているのが現状だ。
彼女の努力が不足しているとは言わないが、やはり加護の恩恵の差は大きい。
月も加護(小)の条件を満たすことができれば、三姉妹仲良くBランクになることもあり得る。
そうなれば、パーティランクもBが見えてくるだろう。
「素晴らしい。これなら、順調に狩りが進んでいきそうだ」
俺は、満足げに呟いた。
今のところ、特に大きな問題は起きていない。
順調だ。
この調子で、どんどん狩りを進めてもらおう。
「――む?」
俺の気配察知スキルに、魔物の反応がある。
単独で、大きめの反応だ。
ゴブリンやクレイジーラビットではないな。
「おい、お前たち――」
俺は注意の声を上げようとする。
だが、俺の言葉よりも早く彼らは警戒態勢に入っていた。
「我が神よ! 俺たちなら大丈夫です」
「へへっ。伊達に長いこと冒険者をやってきてませんぜ!」
アランとトミーが自信満々に言う。
油断しているわけではないか。
いい意味でリラックスしている様子だ。
「出てくるのを待ち構えて~。いくよ~。【ウッドバインド】~」
「ガアァッ!?」
茂みから飛び出してきたリトルベアを、花の魔法が捕らえる。
「凍えろ……。【ブリザード】……」
「グゥ……グオォッ……」
雪の放った氷結系の水魔法。
その冷気が、リトルベアを包み込む。
奴の体温を急速に奪っていく。
「へへっ。いいねぇ!」
「温度差でダメージを与えてやるぜ! 【ファイアーボール】!!」
「グアアァッ!?」
アランの放った最初級の火魔法がリトルベアを襲う。
本来、リトルベア級の魔物に対してファイアーボールでは威力不足だ。
しかし、先んじて放っていた雪のブリザードにより体温が低下していたリトルベアに、それは大きな効果を発揮した。
「これでトドメよ! 【シャドウエッジ】!!」
月の必殺の一撃が、リトルベアの首を切り裂く。
「グルルルル……」
首から血を流しながら、リトルベアが倒れる。
戦闘終了だ。
連携も取れているし、問題なさそうかな。
「さすがは、我がハイブリッジ男爵家が普段から重用しているだけある。見事なものだ」
「勿体なきお言葉でございます! 我が神よ!!」
「タカシの旦那にそう言っていただけると、嬉しいでさぁ!」
「えへへ。ありがとね~」
「……どうも」
「まだまだこんなものじゃないわよ!」
アラン、トミー、花、雪、月がそんな反応を示す。
「よし、ここはお前たちに任せよう。俺は他の場所を見て回ることにする。無理だけはするなよ? 何かあったらすぐに知らせてくれ」
「承知しました!」
「分かったわ!」
こうして俺は、彼らと別行動を取ることにした。
どこを見て回るか……。
EランクやDランク下位に任せているエリアは、大して重要じゃないよな。
危険度も低いし、見て回る意味は薄い。
「そうだ、フレンダに任せているエリアに行ってみよう」
Bランク冒険者である彼女が率いるパーティには、それなりに危険な場所を任せている。
ま、危険と言ってもせいぜいリトルベアが出るぐらいだけどな。
西の森の危険度はラーグの街周辺の中では高めだが、王国全体の中ではさほどでもない。
フレンダが危機に陥ることはそうそうないだろう。
例外があるとすれば、『魔の領域』から高ランクの魔物が迷い込んできた場合ぐらいだろうな。
俺もかつて、ホワイトタイガーに遭遇したことがある。
あのときは大変だった。
「おっと、思い出に浸っている場合じゃないな。ちゃちゃっと見て回って、仕事を終わらせていこう」
俺はそんなことを呟きつつ、フレンダの担当区域に向かい始めたのだった。
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