「景春、父君の様子はどうだ?」
「ふふっ。あんたのおかげで、すっかり元気よ! 今朝なんて、母上と中庭を散歩したって!」
景春は嬉しそうに笑う。
まだ15歳前後の彼女が若くして藩主の座に就いた理由は、先代(俺から見ると先々代)が病で倒れてしまったことにある。
ただの病ではなく、ほぼ寝たきりとなり政治的な判断もまともに下せないレベルの病だ。
そこで、急遽彼女が藩主に担ぎ出された。
彼女の無茶な思いつき増税が原因で紅葉や流華が苦しみ、俺は桜花城攻めに踏み切ることになった。
そう考えると、寝たきり状態からでも景春父が無理やり政治的手腕を振るい続けた方がマシだった可能性はある。
もしくは、景春父から見て姉にあたる樹影に一時的に政治を任せるとか、血の繋がりを持たない優秀な部下に任せる手もあっただろう。
だが、『持続性』『性別』『血縁による求心力の強弱』『血統妖術の有無』などについていずれも一長一短があり、完璧な策は存在しなかった。
景春は『まだ10代中盤と若いため軌道にさえ乗れば長期的に安定する』『跡取りに男児が生まれるまで対外的には男として育ててきた』『歴代藩主と確かな血縁関係がある』『若くして血統妖術を高いレベルで使いこなしている』などの要素を持つため、総合的に見て最適解だったと言えよう。
「そうか……それは良かったな」
「うん!」
「俺に反旗をひるがえさない限り、父君の治療は継続すると誓おう。景春も、しっかりとご両親のことを気遣ってやってくれ」
「分かった!」
景春は素直に頷く。
彼女はもう俺の女だ。
裏切る心配はない。
だが、彼女の両親は別だ。
特に、俺から見て先々代藩主にあたる父親は要警戒である。
元より病に伏せっていたため、放っておけばそのうち病死しただろうが……。
景春の忠義度を稼ぐ目的で、俺の魔法で治療してやった。
先ほど彼女が言っていたが、今では散歩できるレベルにまで回復しているようだ。
自分から政治的リスクを増やしているような行為だが、長い目で見れば悪手とも言い切れないはず。
血統妖術を使える景春に通常の加護を付与できれば、その恩恵はかなり大きいだろうからな。
「あ……でも……」
「どうした? 景春」
「あんたに、1つだけ言い足りないことがあったわ」
景春が言う。
なんだろう?
何か文句を言われることがあったかな?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!