リンと彼女の両親の再会は無事に終了した。
それぞれにとても喜んでもらえた。
「さて、リン。この後の話なんだが……」
「もちろん、ご主人さまに今後もお仕え致しますぅ」
リンが即答する。
「俺としても、もちろんそうしてほしい。リンの働きぶりは、上司のレインやクルミナからも好評だからな。しかし、せっかく両親と再会できたのにまた離れ離れはツライのではないか?」
「そ、それはそのぅ……。寂しいですが……」
リンが良い淀む。
やはり、迷いがあるようだな。
「ハイブリッジ騎士爵様。私たちは、リンの治療費の足しにするため、そして奴隷から買い戻すために、貯金をしてきました」
パリンがそう口を挟む。
「ああ。よく頑張っていたそうだな」
村からこの街までの道中で、そのあたりの話も聞いている。
「ハイブリッジ騎士爵様方のおかげでリンの目が完治し、そしてこれほど素晴らしい主人に買い取ってもらえた今、治療や買い戻しに向けて新たに貯め込む必要がなくなったのです」
「まあ、確かにそうかもしれないな」
パリンたちは必死に働いて稼いできたが、その使い道がなくなったわけだ。
「ですので、たまにであればこの街までやって来る旅費を出すぐらいの余裕はあります。リンはまだ幼いですし、なにとぞ今後も面会を許していただけないでしょうか?」
パリンがそう言う。
ずいぶんと控えめな要望だな?
まあ、客観的に見れば適切な要望ではあるかもしれない。
病が完治したり両親と再会したのは、あくまで購入者である俺の厚意でしかない。
今後の面会を許可するかどうかは、俺の判断にかかっているのだ。
「ふん。それは認めがたいな」
俺はビシッとそう言う。
「ああ、そんな……。騎士爵様……」
「控えなさい。リンを治療し、こうして一度会わせていただけただけでもありがたいことなのだ……」
リンの母と父パリンが悲壮な顔でそう言う。
いかん。
言葉選びを間違えたか?
どうも、貴族としての適切な言葉遣いや態度が掴めない。
あの日の村での言動も、同行していたユナやサリエから苦言を呈されてしまった。
確かに、もう少しやりようはあったかもしれない。
この街までの馬車上でパリンたちと少し話し、そして到着してから詳細を説明して、何とか彼らから俺への悪印象を取り除けたところだった。
今回の俺のマズい言葉選びにより、また新たな誤解が生まれようとしている。
早く補足の説明をしよう。
俺はリンに視線を向ける。
「リン。今後は両親とここで一緒に暮らさないか? 幸いにも空き部屋はある。お前が望むなら、両親も含めてみんな一緒に住んでもいいぞ?」
これが言いたかったのだ。
わざわざ遠路はるばる村からこの街に通う必要はない。
彼らの村の村長や領主に話は通しているし、この街に移住してもらった方が彼ら一家にとって都合がいいだろう。
リンを奴隷身分から解放してパリンたちとともに村まで送り届けるというのもなくはないが……。
さすがにそこまでの慈善行為をする余裕はない。
彼ら一家だけならもちろん可能だが、俺の領地やこの国内には他にも困っている者がたくさんいる。
全員を完璧な形で援助するには、金や人手がいくらあっても足りない。
純粋な慈善事業としては、できることに限界があるのだ。
一方で、打算込みの援助と考えれば、十分にありだ。
家族全員で住んでくれれば、それだけ忠義度稼ぎができる機会も生まれるはず。
そして無事に加護を付与できれば、能力が増す。
この街、この領地、この国に大きく貢献してもらうことも可能だろう。
そしてゆくゆくは、世界滅亡の危機にともに立ち向かってもらいたい。
まあ、世界滅亡はまだまだ先の話だけどな。
「えっ!? いっしょに住んでもいいんですかぁ!?」
リンは驚きつつも、嬉しさを隠しきれない様子だ。
「もちろんだとも」
「ご主人さま! ありがとうございますぅ!」
リンが俺に抱きつく。
「ハイブリッジ騎士爵様……。何とお礼を申し上げればいいのか……」
「ありがとうございます」
パリンとその妻が頭を下げる。
「礼には及ばない。だが、もし感謝したいと思うならば、これからこの街、そして周辺まで含めたハイブリッジ騎士爵領の発展に尽力してくれればいい」
「発展ですか……? しかし申し訳ないことに、私どもに特殊な技能などはありませんが……」
それはそうだろうな。
パリンとその妻は、ごく一般的な村人だ。
極端に重用されるようなレアな技能は持っていない。
「難しく考える必要はない。自分にできることをするのだ」
「わかりました。村では、畑仕事と少々の狩りを行っていました。この街で、何とかできる仕事を探してみます」
パリンがそう言う。
彼が考えている方向性は妥当だろう。
住む場所を提供するとは言ったが、俺が直接雇用するとは言っていないからな。
もちろん彼らをハイブリッジ家の家臣として登用するのもありだが……。
そうなると、同じ奴隷であるニルスやハンナの両親だとか、孤児院出身のロロの兄弟姉妹分とかはどうするという話になりかねない。
どこかで線引は必要だ。
直接の雇用はしないでおこう。
しかし、多少の補助や斡旋はできる。
「畑仕事か。それなら、ラーグの街の周辺に小中規模の畑が点在している。新たに用意してやろう」
そこには、ニムの母マムが管理する畑もある。
今は、ニムの父パームスや、モニカの両親であるダリウスやナーティアと協力して管理しているはずだ。
水利、魔力、魔物、交通などの総合的な事情により、ラーグの街周辺の1つ1つの畑はそれほど大きくない。
工夫次第では、まだまだ新たに開墾する余地はある。
「そ、そこまでしていただいてよろしいのでしょうか? とてもありがたいのですが……」
「気にするな。乗りかかった船だ」
「ハイブリッジ騎士爵様……。重ね重ね、お礼の言葉もございません」
パリンが感激した様子である。
忠義度は……。
無事に30を突破している。
加護(小)も十分に狙える位置だ。
彼の現在の技能は『畑仕事と少々の狩り』らしい。
具体的な仕事ぶりは見てみないとわからないが、おそらくは平均的な範囲にとどまるだろう。
しかし、加護(小)が付けばそれも変わる。
全ステータスが2割向上し、何らかのスキルのレベルが1上昇するからな。
チートというとやや大げさだが、平均的な住民に比べると格別な能力を発揮することだろう。
畑仕事に精を出してもらって街の食料事情を少しでも潤沢してもらえればそれでありがたいし、畑仕事の傍らでファイティングドッグ狩りをしてくれればこの地域の安全性が増す。
期待したいところだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!