シルバータイガーに襲われていたナーティアやパームスたちは、ブギー盗掘団によって助けられた。
しかし、シルバータイガーの魔力波の影響により記憶を失ってしまっている。
残された名簿から、ナディアとパルムスという名前を読み取り、その名を名乗ることにした。
ナディアやパルムスたちは、命を救ってくれた恩を返すために何かしたいと申し出た。
ちょうど人手が足りなかったブギー盗掘団は、これ幸いと彼女たちを盗掘団に引き入れることにした。
ブギー盗掘団の面々。
ナディア、パルムス、リッキー。
それに、冒険者などその他馬車に同乗していた人たち。
みんなで、盗掘団のアジトまでやってきた。
アジトのほら穴のすぐ外あたりに集まる。
「では……。あらためて歓迎しよう。俺がこの盗掘団の頭領ブギーだ」
ブギー頭領がそうあいさつをする。
「ああ。よろしく頼む。……道中でも聞いてはいたが、盗掘をしているんだな。なぜわざわざそんなことを? ブギー頭領やジョー副頭領の力があれば、他に稼ぐ手段はいくらでもあるだろうに」
パルムスがそう問う。
ブギー頭領やジョー副頭領は、魔石をふんだんに使えば、Bランククラスの実力がある。
魔石なしでも、Cランククラス以上の実力はある。
生きていくだけであれば、わざわざ盗掘という犯罪に手を染める必要はない。
「ああ。俺たちの夢のためには仕方のないことなんだ」
ブギー頭領がそう言う。
ひと息置いて、彼が言葉を続ける。
「この巨大な山脈の向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。俺はそれを見てみたいんだ」
ブギー頭領が遠くを見るような目でそう言う。
「ブギー頭領。1つ訂正を。まだ見ぬ世界を見たいのは、俺も同じです」
「ひゃっはー! 俺もそうですぜ!」
「ひーはー! それはみんなの夢でさあ!」
ジョー副頭領と、下っ端戦闘員コンビがそう言う。
「……そうだな。訂正しよう。俺”たち”は、この山脈の向こうの世界を見てみたいんだ」
ブギー頭領がそう言い直す。
「山脈の向こうか。確か、”魔の領域”と呼ばれている場所だな」
「そうね。危険なところだと聞かされてきたけど……」
パルムスとナディアがそう言う。
彼らは記憶喪失だが、このような一般常識は覚えていた。
「それは、お前たちのような一般人が興味本位で山越えを試みないようにするための風説だ。許可のない山越えはサザリアナ王国法でも禁じられているしな。だが山越えさえしてしまえば、極端に危険な場所じゃねえはずだ」
ブギー頭領がそう言う。
彼が言葉を続ける。
「南東のゾルフ砦付近から山脈を超えれば、オーガやハーピィという種族の集落があるという噂だ。北西のウェンティア王国付近から山脈を超えれば、竜人の里があるらしい。では、この西の森から山脈を超えればどうなる? ロマンがあるじゃねえか」
この時点では、オーガやハーピィ、それに竜人の里については一般人には公開されていない情報である。
ブギー頭領は、独自のルートによりそれらの情報を仕入れていた。
「最初は、山を単純に越えようとしたんだがな。上に登るに連れて、どんどん環境が過酷になってきやがる。危険な魔物も多い。犠牲者が出る前に、正攻法での山越えは断念した」
「なるほどね……。確かに、この高さの山を超えるのは大変そうだ」
ナディアが目の前にそびえる山を見上げ、そう言う。
頂上は雲にかかっていて見えない。
ナディアは、かつてはサーカス団に所属し各地を回っていた。
小さな山であれば、超えたこともある。
この巨大な山脈は、彼女が超えてきたどの山よりもはるかに大きい。
「次に挑戦したのは、トンネルを作ることだ。しかし、よく考えればこれも現実的ではなかった。反対側まで貫通するのに、何十年かかるかわからん。それに、崩落のリスクもあるし、掘り進める方向も定まらん」
「ふむ……。確かにな。土魔法で補強しようにも、限度があるしな」
パルムスがそう言う。
彼は、土魔法の使い手だ。
土魔法を畑仕事に活かすこともあった。
使い方次第では、トンネル作りにも役立つだろう。
とはいえ、これほどの巨大な山脈を貫通するトンネルを作ることは現実的ではないと感じられた。
「だが、その失敗の中でも収穫はあった。謎の古代遺跡を発見したのだ」
「ひゃっはー! 最初に発見したのは俺ですぜ!」
「ひーはー! 探索を進めていったのは俺ですぜ!」
ブギー頭領の言葉を受けて、下っ端戦闘員コンビがそう言う。
「ああ。お前たちのがんばりには助けられた。……それで、古代遺跡の中にはいろいろと便利な魔道具があってな。その中で、巨大な馬車のような魔道具を発見したのだ。下級の魔石では、少しずつしか走らんがな」
「しかし、どうやらAランク以上の魔石があれば、かなりの速さで移動できそうなことがわかりました。それに、馬車の中を快適に保つ効力もあります。Aランク以上の魔石が複数あれば、山越えができる可能性も十分にあります」
ブギー頭領とジョー副頭領がそう説明する。
「なるほど……」
「それで、ここでひたすら魔石を採掘しているってわけね」
パルムスとナディアがそう言う。
「ああ。Aランククラスの魔石はなかなか出ないから、苦労しているがな。採掘と並行して、古代遺跡の探索も進めている。まだ最深部には達していない」
ブギー頭領がそう言って、一通りの説明を終えた。
「パルムスさんやナディアさんたちも、これからはブギー盗掘団の一員として、いっしょに働いていきましょうね」
「ひゃっはー! 夢に向かってがんばるぜ」
「ひーはー! よろしくな、兄弟!」
ブギー頭領、ジョー副頭領、下っ端戦闘員コンビがそう言う。
「ああ。恩を返せるよう、がんばるぜ」
「そうね。私も」
「「俺たちも手伝っていくぜ!」」
パルムス、ナディア、それにその他の元乗客たちがそう言う。
この日、ブギー盗掘団は大幅に人員が拡充された。
そして、彼らの採掘速度と古代遺跡の探索速度は向上したのであった。
シルバータイガーから無事にAランクの魔石を剥ぎ取ることに成功したり、古代遺跡の探索中に”蒼穹の水晶”が発見されたり、西の森で”光の乙女騎士団”の面々と遭遇してひと悶着あったりもしたのだが、それはまた別の話だ。
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場面は再び、現在に戻る。
ニムやユナたちが、ジョー副頭領やナディアたちと交戦しているところである。
ジョー副頭領の奮戦も虚しく、どんどん劣勢に追い込まれていく。
「ぐっ! 俺は、ブギー頭領と同じ夢を見ています。こんなところで、正義の味方面した冒険者どもにやられるわけにはいきません! はああ……!」
ジョー副頭領が満身創痍になりながらも、力強くそう叫ぶ。
先ほどの回想は、彼の脳内に流れていたものだ。
もちろん、戦闘中であるモニカやニムがその内容を知るはずもない。
フラフラとしつつも戦闘の意思を失わないジョー副頭領。
最後の力を振り絞り、闘気を開放する。
そんなジョー副頭領の背後から、近づく者が1人いた。
「ニームー……、クローズッ!!!」
ニムだ。
ロックアーマーをまとった腕で、頭部を挟み込むようなパンチをジョー副頭領に放つ。
「………!! あ……!!」
ジョー副頭領は大ダメージを受け、倒れ込む。
ニムによる容赦のない一撃だ。
「ゆ、夢ですか。それはすばらしいことだとは思いますが……。わたしには何の関係もない話です…」
ニムがそう言い放つ。
タカシといい、ミティといい、ニムといい。
最近の彼女たちは、容赦のない一面が目立つ。
チートの恩恵による急成長により、増長気味なのだろうか。
彼女たちの心優しい性根を考えると、それだけでは説明がつかないようにも思える。
あるいは、先ほどのジョー副頭領の回想内容が口に出されていれば、ニムの手も止まったのかもしれないが。
現状、ニムにとってジョー副頭領はただの盗掘者である。
容赦のない攻撃もある程度は仕方がないと言えるだろう。
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