治療岩の職員用休憩室で、俺はリリアンに迫った。
しかし、いいところで邪魔者が入ってしまう。
「ああ。この俺――ナイトメア・ナイトは確かにここにいるぞ。殿下」
俺はそう答える。
すると、エリオット王子は俺たちの方へ歩み寄ってきた。
「また貴殿に救われたようだな。礼を言うぞ、ナイトメア・ナイト殿」
エリオット王子はそう言って俺に礼を述べる。
そして、俺の隣のリリアンに目を向けた。
「ふむ……。貴殿は責任者のリリアンだな。戦士たちの治療に尽力してくれたようだ。ご苦労である」
「い、いえ! 滅相もございません!!」
リリアンは深々と頭を下げる。
治療岩の責任者とはいえ、王子から直々に話しかけられるなど、そうあることではないだろう。
彼女は緊張しているようだ。
ここは、俺が主体となってエリオットに対応するとしよう。
「ところで、エリオット殿下はどうしてここに?」
「もちろん、戦士団の負傷状況を確認するためだ。今回の被害は、王宮にも伝わっているからな」
そう言って、エリオットは肩をすくめた。
まぁ当然か。
戦士の1人や2人が負傷した程度なら、わざわざ王族に報告するほどではない。
だが、今回のように多数の戦士が重傷を負ったのであれば話は別だ。
彼は忙しい身であるはずだが、自ら現場に足を運んだらしい。
「それに、メルティーネからも頼まれた。『王宮務めの治療魔法使いを派遣してほしい』と」
「おお、そういうことだったのか。それはありがたい」
そう言えば、途中からメルティーネの姿が見えないと思っていた。
彼女は俺の付き添いであり、治療魔法は使えない。
てっきり、邪魔にならないよう隠れているのかと思ったのだが……。
まさか王宮の方に戻っていたとは。
「しかし、見ての通りこの治療岩は大丈夫だ。何とか死者を出さずに済んだ」
俺はそう言って、休憩室の外に視線を向ける。
すると、エリオットもうなずいた。
「どうやらそのようだな。他の治療岩も、ギリギリで対応できたと聞いている。ナイトメア・ナイト殿のおかげだ」
「いや、俺は大したことはしていないさ。リリアンや他の職員が頑張ってくれたおかげさ」
俺は謙遜する。
実際、俺1人では無理だっただろう。
リリアンや他の職員たちがいなければ、対応しきれなかったはずだ。
「それを含めて貴殿の功績だ。よって、さらに拘束を1つ外す許可を――ん?」
エリオットが俺の右足に視線を向ける。
そこには、何の拘束処置もされていない。
「貴殿の拘束は解かれたのか?」
「ああ、緊急事態だったのでな。自力で解除させてもらった」
俺は答える。
エリオットは目を丸くした。
「じ、自力で解除……だと? この拘束をか?」
「そうだが……。緊急事態だったからな。別にいいだろ?」
「…………。……………………。ま、まぁいい。結果的には、それが功を奏したのだ。俺からは何も言うまい」
エリオットは少し考えた後、そう言って肩をすくめた。
勝手な解除は、ちょっとマズかったようだな。
だが、少なくとも彼は黙認してくれるようだ。
「ところで、貴殿は今回の魔物襲撃の原因について聞いているか?」
「いや、聞いていない。治療作業に集中していて、それどころではなかったからな」
「そうか……」
エリオットは神妙な面持ちで呟く。
彼の表情を見て、俺はピンときた。
(ああ……これは何かあるな)
そう思った瞬間、彼は続けて口を開いたのだった。
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