困った。
通信の魔道具の使い方がわからない。
ダメ元で賊にも聞いてみたが、知っている者はいないようだ。
それならばと、せめて主だった賊を撃破しておくことにした。
手始めに、”白狼団”の頭領ホプテンスを蹴り飛ばした。
彼はガレキの中で倒れ込んでいる。
「頭領というからには、頑丈なのだろうなぁ。一応、追撃しておくか。【百本桜】」
100個のファイアーボールが宙に展開される。
そしてそれらは、ホプテンスへと向かっていった。
ドドドドド!!
連続する着弾音。
なかなか迫力がある。
賊の頭領相手なら、これぐらいがちょうどいいだろう。
俺はそう思ったが……。
「…………」
なんと、ホプテンスは起き上がってきた。
服はそれなりにボロボロだが、身体に大きなダメージは見当たらない。
彼が口を開く。
「さすがだ。想像の遥か上を行っている」
「おかしいな……」
俺の先ほどの攻撃は、かなりの威力だったはず。
もちろん殺す気はなかったが、戦闘不能に追い込むつもりで攻撃した。
まさか、これほどピンピンされるとは思わなかった。
「……”紅剣”相手にたった10個じゃ、心もとないな……」
彼がそう呟くと同時に、彼の右腕から魔石が排出された。
それは魔力を完全に失っているようだ。
ボロボロに崩れ、風に流されてどこかへ飛んでいく。
まさか、あの魔石にダメージを転嫁したのか?
そのような技術は聞いたことがないが、工夫次第ではできなくもないのだろうか……。
俺が少し考え込んでいるときだった。
「うわぁ! ……どうっ!!!」
巨漢がこちらにふっ飛ばされてきた。
「はあ、はあ……。参った……。何という強さ……」
彼は肩で息をしながら、周囲の様子を確認している。
「っ!? まさかお前は、”紅剣”のタカシか!?」
「ん? ああ、いかにもそうだ」
俺もずいぶんと有名になったものだな。
賊の間で知られていても、さほど嬉しくはないが。
「……何という不運……! 前方に”紅剣”、後方に”聖騎士”。くそっ、ここまでなのか……?」
巨漢がそう呟く。
なるほど。
彼をここまでふっ飛ばしたのは、シュタインだったか。
見れば、彼もすぐそこまで来ている。
「……そうでもない。お前にはまだ死相が出ていない」
「ふふ。”白狼団”のホプテンスか。普段は敵だが、今は冗談でもありがたい」
巨漢が笑みを浮かべる。
この男にも見覚えがあるな。
重要な標的の1人だ。
白狼団とはまた別の盗賊団の頭領である。
シュタインと協力して、2人とも捕縛するか。
「……あぁ~!!」
巨漢が声を上げる。
それと同時に、闘気が膨れ上がった。
「ずいぶんと痛めつけられたが……。さて、ここからは反撃の時間だ!」
巨漢の身体に変化が起きる。
筋肉量がさらに増し、体格も大きく変化した。
特殊体質……、あるいは特殊な技か?
この世界には、まだまだ俺の知らない武技があるんだなぁ。
「うはっ! 見ろ! あいつがあの技を出すのは久々だぞ! こりゃ面白え!」
「ヤバいっすよ! あいつらみんな殺されます! アックスさん、俺たちは逃げましょうよ!!」
物陰に隠れている男たちがそんなことを言っている。
そういえば、彼らもいたか。
俺の主な標的は、占い師のホプテンス、巨漢、そして隠れているアックスだな。
もちろん他にも捕らえるべき賊はいるが、そこはベアトリクスやミティたちが頑張ってくれるだろう。
俺は目の前の敵に集中だ。
「ずいぶんと痛めつけてくれたな。今までのオレとは思わないことだ!!」
巨漢がシュタインに殴りかかる。
なかなかの闘気量、そして速度だ。
「ぐっ!」
シュタインがたまらず防戦一方になる。
俺も加勢しようか?
そう思ったときだった。
グサッ!
シュタインの剣が巨漢の足を貫いた。
大ぶりになった攻撃のスキを逃さない。
さすがだ。
「ぐわぁっ! 痛え!!」
巨漢が地面に倒れこむ。
シュタインは追撃を加えようと、彼に近づいていく。
あっちはシュタインに任せておけばいいだろう。
「さあ、俺の相手はお前だな」
「……【降魔の術】」
ざわざわ。
ホプテンスの姿が異形へと変わる。
降魔……。
悪魔と契約でもしたのか?
この世界に来て、悪魔と会ったことはないが……。
魔法、魔物、幽霊、ドラゴンなどの存在は確認しているし、今さら悪魔の存在くらいで驚きはしないが。
「おいおい……。おっかないじゃないか……」
まるで悪魔のような形相だ。
驚きはしなくとも、やはり怖いものは怖い。
俺は思わず一歩後ずさってしまった。
「くらえっ!」
ズババッ!
ズバババッ!!
ホプテンスが俺に攻撃を繰り出してくる。
やはり、大幅にパワーアップしているな。
まあ、俺に触れられるほどではないが。
すっ。
俺は彼の目の前に、2本の指を持ってくる。
「【ライト】」
ピカッ!!
眩しい光が発生する。
これは最近取得した最初級の光魔法だ。
初級魔法でも、術者の力量によってその威力は上下する。
「おわあああぁっ!! 目が!! 見えないっ!!!」
ホプテンスはまともに喰らい、目を手で覆って苦しんでいる。
俺のMPや魔力のステータスは高い。
初級の光魔法だろうと、俺にかかれば必殺級の目眩ましとなる。
さ、仕上げといこうか。
「【ストーンショット】……【ストーンショット】……」
俺は絶え間なく石弾を発射する。
また【百本桜】でも良かったのだが、さっきは通じなかったからな。
少し攻め方を変えてみた。
「うっ!!!」
ホプテンスが苦しんでいる。
「ふうむ。いったいどういうタネがあるのか知らないが……。実体はあるなぁ。ネルエラ陛下のような特殊な纏装術ではなさそうだ」
ネルエラ陛下の場合は、斬撃と打撃を全て無効化する。
本人がそう断言していた。
「頭領ーー!!!」
「マズイぞ! ダメージの限界が……」
「頭領が死んじまう!!」
取り巻きの賊たちが叫んでいる。
ホプテンスもタフだが、限界があるようだな。
そろそろ終わらせるか。
「終わりだ」
「ぐっ!!」
ホプテンスが抵抗の素振りを見せるが、ダメージは大きい。
無駄なことだ。
「……ん?」
シャーン、シャーン。
ドンガ、ドンガ。
パフパフー。
どこからともなく、音楽が聞こえてくる。
こんなスラムで、それも戦闘中に音楽など聞こえてくるはずがないのだが……。
「へいへい! オレの演奏を聞いていけよ! ”紅剣”のタカシさんよぉ!!」
そう叫んだのは、ずっと物陰に潜んでいたアックスだ。
彼は仲間とともに楽器を持ち、演奏している。
ポロロン。
ブーパー、ブーパー。
チャカポコ、チャカポコー。
聞いたことのない曲だ。
いや、どこかで聞いたような気もするが……。
「くらいやがれっ! ”シャーン”!!」
彼がシンバルを叩く。
それと同時に……。
「うっ! なんだぁ?」
俺の右腕に斬撃が入った。
遠隔攻撃?
そんな気配はなかったが……。
俺は警戒度を高める。
これ以上得体の知れない攻撃を受ける前に、さっさと倒しておこうか。
だが、俺がそう判断した直後、すかさず追撃が入った。
「”ドーン”!!!」
アックスが太鼓を叩く。
ドゴオオォーン!!!
俺の腹のあたりで爆発が起きる。
その衝撃で、俺は倒れ込んでしまったのだった。
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