潜入作戦が始まった。
参加者は10人。
俺、ミティ、アイリス。
アドルフの兄貴、レオさん。
ギルバート、ジルガ、マクセル、ウッディ、ストラスだ。
10人で進んでいく。
ゾルフ砦の手前まで来ているオーガ、ハーピィの本隊を避けて、敵地へ直接乗り込む作戦だ。
数日かけて、魔の領域に到達した。
オーガ・ハーピィの街が近い。
いつ遭遇してもおかしくないだろう。
緊張してきた。
「へっへっへ。そう緊張するな。このあたりは、一度来たことがある。道案内は俺に任せときな」
「さすがは兄貴! 付いていきます!」
兄貴に従っていれば、間違いはないだろう。
しばらく進む。
何かの建物の中を通る。
「兄貴。ここは……?」
「へっへっへ。ここは何かの遺跡らしい。人は住んでいないから、人目を避けて通るのにはうってつけだぜ」
遺跡か。
何の遺跡だろう。
古代遺物で強力な魔道具や武具なんかが眠っていたりしないかな。
さすがにそう都合よくはいかないか。
……ん?
気配察知に反応がある。
反応元は6つ。
動物か何かかな?
一応、兄貴に報告しておくか。
「兄貴。何かいるみたいですぜ」
「へっへっへ。俺も気づいている。まさか人はいないとは思うが……」
兄貴が緊張した顔つきでそう言う。
『人族にも、なかなか鋭い奴がいるようだな』
気配の方向から、声が聞こえてきた。
聞き慣れない言語だ。
普段俺たちがサザリアナ王国で使用している言語ではない。
俺の異世界言語のスキルか、もしくは意思疎通の魔道具のおかげで、意味は理解できている。
「へっへっへ。まさか、こんなところに見張りがいるとはな。油断していたぜ」
『侵入者が本当に現れるとは。あの女の言う通りだったな。なあ皆の者』
6人のオーガやハーピィが姿を現す。
6人で俺たちを迎撃するつもりか。
『一応聞いておこう。人族よ、ここへ何をしに来た』
6人のうちの1人が、そう言った。
ハーピィの女性だ。
鳥の羽のような腕をしている。
目が黒く、モヤがかかったような印象を受ける。
それ以外は人とそれほど違わないようだ。
「へっへっへ。俺たちはお前たちの進軍先の国民だよ。この侵略を止めに、話し合いにきた」
『ふん。話して止まる程度の事情なら、最初から仕掛けてなどいない』
それはその通りだろう。
やはり、話し合いによる解決は厳しいか。
「へっへっへ。やはり何か事情がありそうだな。話してくれねえか?」
『くどい! どうしてもというのなら、国王陛下に直訴してみるか? もちろん我らがそれを許さぬがな』
「ちっ。戦闘は避けられねえか」
『敵地に少数で潜入したその度胸に免じて、我らの名前ぐらいは教えておいてやろう』
自己紹介が始まるようだ。
『我は束縛のクレアである』
『俺は結界のソルダートだ』
『其れがしは鉄塊のギュスターヴという』
『自分は敏捷のセリナなの』
『僕は鑑定のディークなんだ』
『わたくしは牽制のフェイです』
クレア、フェイがハーピィの女性。
セリナがオーガの女性。
ディークがハーピィの男性。
ソルダート、ギュスターヴがオーガの男性だ。
クレアを含め、6人とも目が黒くモヤがかかったような感じだ。
オーガとハーピィはそれが普通なのだろうか。
……何か、嫌な予感がする。
それにしても、通り名付きで紹介されたが、敵に情報をバラしていいのか?
「へっへっへ。通り名を教えてくれるとは、ずいぶんなサービスじゃねえか」
『この程度のハンデで、人族に遅れを取る我らではない。我ら六武衆の力を見せつけてくれるわ!』
彼らが、兄貴が警戒を促していた六武衆か。
戦闘能力においては、国王夫妻と並び要注意の人物たちだ。
「六武衆、だと? ……俺はお前らなんか知らないぞ」
『人族が我らの顔を知るわけがなかろう。……いや待て。お前の顔は知っている。数年前に、合同訓練に参加していたやつだな』
「へっへっへ。俺も思い出したぜ。お前、六武衆のクラッツに付いて回っていたガキだな。あいつはどうした?」
『ふん。先代は……今頃、湖の底だ。残念だったな』
湖の底。
穏やかじゃないな。
権力闘争か何かで、殺されて沈められたのだろうか。
「なんだと!? てめえ、まさか……」
『話は終わりだ! いくぞ!』
戦闘態勢に入る。
クレアが何かを投げつけてきた。
爆弾か何かか?
いや、これは……。
植物の種か?
『木々の精霊よ。我が求めに応じ敵を縛れ。ウッドバインド!』
種が発芽し、急成長する。
ツルがこちらに伸びてきて、縛られる。
『ふん。他愛のない。これで終わりとはな。……む!?』
「視線で狙いがバレバレだよ。……雷迅拳!」
マクセルはツルを避けていたようだ。
さすが、対人戦を専門にしているだけはある。
だが、マクセルの一撃は、紙一重で避けられる。
「魔法の制御が一瞬緩みました!」
ミティがツルを引きちぎる。
他の連中も少し遅れて、拘束を解いていく。
「ゲ・ン・コ・ツ! メテオ!」
「ワン・エイト・ショットガン!」
ミティとストラスの遠距離攻撃だ。
ミティは岩の投擲。
アイテムバッグにあらかじめ入れておいたものだ。
ストラスは、闘気弾による攻撃。
足から18発の闘気弾を放出し、攻撃する技だ。
防衛戦でも使用していた。
投石と闘気弾が六武衆のいるところに着弾する。
「やったか!?」
土煙により、相手の様子が見えにくい。
『なんだ? もう終わりか? 俺の結界魔法は、この程度ではビクともせんぞ!』
ゾルダートが結界魔法とやらで防いだようだ。
遠距離攻撃では、威力が足りずあの結界を突破するのは難しいかもしれない。
「ウス。ならオデの出番なんだな。……メタリックボール!」
ウッディの鉄球を用いた攻撃だ。
直径1mはあろうかという鉄球を、相手に叩きつける。
さすがに結界魔法とやらでもこれは防げないだろう。
と思っていたら、ギュスターヴが結界の前に立ち、鉄球を受け止めた。
『ボール遊びなら其れがしが付き合おう! 力だけならナスタシア様に次ぐ其れがしの力を見よ!』
相手にも怪力自慢がいる。
やはり一筋縄ではいかない。
「いくぜ! ギルバート!」
「おうよ! ジルガ!」
ギルバートとジルガが攻撃を仕掛ける。
息の合ったコンビネーション。
標的はセリナだ。
「おらあ! ……むっ!?」
ギルバートとジルガの攻撃が空を切る。
『その程度の速度では、自分を捉えることはできないの。一昨日来やがれなの』
彼らの攻撃を、セリナが高速で避けたようだ。
かなりの速度だ。
ストラスの鳴神にも引けを取らない。
「へっへっへ。連中もかなりやるみたいだな」
兄貴は攻防にまだ参加していない。
「兄貴、どうしますか? 俺がタイミングを見て火魔法をぶっ放しましょうか? それとも、近接戦に加勢を?」
戦闘で勝つだけなら、火魔法をぶっ放すのが良さそうだ。
敵味方を含めて、ケガ人がたくさん出てしまうだろうが。
「へっへっへ。お前は先に行け。ここは俺たちが引き受ける。……後ろに控えている奴らが特にヤバそうだ。勝負を焦れば、やられかねん」
「じっくり構えれば負けはないが、今は時間が惜しい。先代の六武衆がいないとなると、あとは国王夫妻との話し合いしかあてはない。この作戦の命運はタカシ、お前に任せる! ギャハハハ!」
マジかよ。
兄貴に付いていくだけで作戦は成功するものだと思って、油断していた。
「ミティの嬢ちゃんとアイリスの嬢ちゃんも連れていけ。……そう不安がるな。お前ならきっとできる」
不安でいっぱいだが、そう言っていられる状況でもない。
「わかりました! ミティ、アイリス、いくぞ!」
「はい!」
「オッケー!」
ミティ、アイリスとともに駆け出す。
国王夫妻とそんなに簡単に会えるものでもないかもしれないが。
がんばって探すしかない。
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