ハイブリッジ杯の表彰式を行っている。
次はベスト8に残った者たちだ。
「お疲れ様だ。ニム」
「は、はい。体調不良気味だったミティさんに負けたのは情けないですが……」
「あの試合の時点では元気だったし、ニムが特別に有利だったわけではないだろう。一回戦ではヒナを寄せ付けなかったし、ニムの強さは十分にわかっているぞ」
「あ、ありがとうございます。しかし、私もまだまだ修行が足りません」
「ああ。これからも精進してくれ」
現時点でも十分な戦闘能力を持つが、上を目指すのはいいことだ。
「そ、それで、タカシさんに1つお願いがあるのですが……」
ニムがおずおずと切り出す。
願い事を叶えられるのは、優勝者の特権だ。
しかし、多少の願いなら随時叶えてやるのもやぶさかではない。
「何だ?」
「……い、いえ。やっぱり後で言います」
「ふむ? わかった」
まあ俺とニムは日頃からよくいっしょに行動しているし、俺に頼み事を行う機会などいくらでもある。
この表彰式という公の場で伝えてもらう必要はないだろう。
彼女が後方へと下がる。
「次は蓮華だな」
「うむ。拙者はこの大会で、己の未熟さを改めて痛感したでござる。今後、さらなる研鑽を積むことにするでござるよ」
蓮華がそう言う。
加護を付与していないキリヤに負けてしまったのは、彼女としても不本意だったはずだ。
「そうか。励んでくれ」
「たかし殿にも、時間があれば拙者と手合わせしてほしいでござる」
「ああ。俺にとっても有意義なことだし、積極的に鍛錬を行っていこう」
蓮華の剣術は、ミリオンズの中でも俺に次ぐレベルだ。
彼女から学ぶことは多い。
「それに……。いや、これは後で言うでござる」
蓮華は何かを言い残しつつ、後ろに下がっていった。
ニムといい彼女といい、後で何を言ってくるのだろうか。
少し不安だが、あまりムチャなことも言わないだろう。
「えへへ~。ハナちゃんは結構がんばったよね~。褒めて~」
「そうだな。トミーを打ち破ったのは見事だった」
今回の大会の開始時点で、ハイブリッジ家の関係者ではなかったのは5人。
雪月花の3人に、トミーとナオンだ。
その内のツキ、トミー、ユキは一回戦負けを喫した。
一回戦で勝ちを収めたハナは、比較的健闘した方だと言えるだろう。
「それでそれで~? ハナちゃんの希望は叶うのかな~?」
ハナがニコニコしながら尋ねてくる。
健闘をたたえて、多少の望みくらいは叶えてやってもいいが……。
「ハナは何を望むんだ?」
「言ってなかったっけ~? ハナちゃんを妾にして、何不自由なく過ごせるように養ってくれるって~」
「おお? 聞いていたような、聞いていないような……」
妾云々は少し記憶にあるが、具体的なところはよく覚えていない。
あまり本気にしていなかった。
「じゃあ、もう一回言うね~。ハナちゃんをお妾さんにして、のんびりさせてほしいな~」
「…………」
俺は沈黙する。
その言葉の意味するところを、頭の中で反すうしてみる。
「……それはつまり、側室として迎えてほしいということか?」
「そこまで大げさに考えなくていいけど~。生活費や子どもの養育費はほしいな~」
側室と妾の違いは何か。
ほぼ同じような意味だった気がするが……。
細かな定義までは覚えていない。
婚姻関係を結ぶか否か。
貴族として王や他家と接する際に、紹介するか否か。
そのあたりで線引される感じだろうか。
婚姻関係を結ばず生活費等を援助するだけで済むのであれば、女好きの俺におって都合のいい関係ではある。
「しかし、ハナはそれでいいのか? 俺の愛をほしくはないのか?」
「安全とお金があればそれでいいかな~」
彼女は俺の地位や金銭にしか興味がないようだ。
まあ、以前からそんな雰囲気は出していたし、今さらか。
「わかった。前向きに検討しておく」
地位や金銭だけが目当ての者をほいほい囲っていくのは、普通に考えれば危険だ。
身の破滅に繋がる。
しかし、俺には加護付与というチートスキルがある。
その副次的な効果により、各人の忠義度を測ることができる。
ハナの忠義度は30台だ。
決して低くない。
口では金金と言っているが、実際のところ俺に対して多少の好感を抱いてはいるのだろう。
少なくとも俺に害意はないはずだ。
妾としてでも長く付き合っていけば、いずれ加護(小)の条件を満たすこともあるかもしれない。
そもそも俺自身が、美少女に囲まれて暮らすことを心の底から望んでいるのだ。
世界滅亡の危機に立ち向かうという使命のためにも、俺自身の欲望のためにも、断わる手はない。
「ありがとう~。期待してるね~」
ハナはそう言って下がっていった。
ベスト8止まりの者は、次で最後だ。
「はっ。あたいにも聞こえていたぜ。ずいぶんとモテモテじゃねえか、ご主人」
そう言うのは、猫獣人の奴隷クリスティだ。
「うむ。俺のような強者には、人が寄ってくるのだ。クリスティもどうだ?」
「あん? ご主人の強さは申し分ねえが、あいにくあたいは色恋沙汰に興味がねえ。他を当たってくれ」
「ふむ。残念だ」
クリスティはまだ結婚などに興味を持っていないようだ。
この手の話題に興味のない者まで引き入れると、ハーレムの収拾がつかなくなる。
今は諦めるしかないだろう。
クリスティの忠義度は30台中盤だ。
以前俺の実力を見せつけた後に30台に乗り、その後も少しずつ上がってきている。
好感度は十分だと思うのだが、忠義度は必ずしも恋愛に繋がるわけではない。
クリスティを俺のハーレムに加えるには、また別のアプローチが必要かもしれないな。
ハーレム云々は置いておくとしても、あと一歩で加護(小)の条件を満たす。
彼女の困りごとなどがあれば、積極的に手伝ってあげたいところである。
俺はそんなことを考えつつ、観客席に向き直る。
「ニム、蓮華、ハナ、クリスティ。以上の4名は、見事ベスト8まで残った! その優れた戦闘能力で、この街、そして我がハイブリッジ騎士爵領の発展に貢献してくれるはずだ! 惜しみない拍手を!!」
俺は高らかにそう宣言する。
「「うおおおおぉっ!」」
パチパチパチパチ!!
観客席から歓声と拍手が巻き起こった。
さて。
続いては、ベスト4に残った者たちへの表彰だな。
しっかりと労ってやることにしよう。
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