数年後――

「【テレポート】」

　俺は空間魔法で自宅に戻ってきた。

　そこには、俺の帰りを待ってくれている人がいる。

「きゃああっ！？」

「おっと……」

　俺は視線を逸らす。

　すると、その人は「もぅ……」と少し怒ったような声を上げた。

「タカシさんったら……。いきなり転移してくるのはやめてくださいって言ったじゃないですか」

「はは、すみません」

　チートスキル『ステータス操作』により、俺の空間魔法はかなりの領域に達している。

　大容量の『アイテムボックス』や『アイテムルーム』の他、転移魔法陣を使うことで遠距離を一瞬で移動する『テレポート』も便利だ。

　ファイアードラゴンにより壊滅したラスターレイン伯爵領への援助の他、例の大事件で焦土と化したヤマト連邦への人員派遣にも貢献している。

　もちろん、他の領地を手伝ってばかりというわけではない。

　ハルク男爵領自体も発展を続けている。

　聞いた話では、そろそろ陞爵の可能性もあるとか……。

　だがまぁ、俺にとってさほど重要な事項ではない。

　俺としては、愛する妻――目の前にいる女性との生活が第一だ。

「もう……。ひょっとして、わざとしているんじゃないですか？」

　その女性――レイン先輩は苦笑する。

　俺はそんな彼女に笑いかけた。

「ただいま帰りました。レイン先輩」

「……おかえりなさい」

　レイン先輩は微笑む。

　俺たちは夫婦だ。

　代々メイドや執事を輩出しているハティア家に婿入りする形で結婚した。

　今の俺は、『タカシ＝ハティア』である。

「ところで、レイン先輩」

「なんですか？」

「さっきは何をされていたんですか？」

　俺はレイン先輩を問い詰める。

　彼女は、俺の服に顔を埋めて何かをしていたのだ。

「え？　あ、いや……その……」

　レイン先輩は顔を真っ赤にする。

　そんな姿がまた可愛いらしい。

「タカシさんが出張中で……さみしくて……。せめて匂いだけでも……と……」

　レイン先輩が恥ずかしそうにつぶやく。

　俺は思わず笑ってしまった。

「な、なんで笑うんですか！？」

「いえ……。私も、レイン先輩が恋しくなっていたものですから。似た者夫婦だなぁと……」

「そ、そうですか……」

　レイン先輩はますます顔を赤くする。

　そして、俺にギュッと抱きついてきた。

「もう……しょうがない人ですね……」

「ありがとうございます」

　俺はレイン先輩を抱きしめる。

　しばらく二人で抱きしめあった後、ゆっくりと体を離した。

　そして、見つめ合う。

「レイン先輩」

「タカシさん……」

　俺たちは自然と顔を近づけていく。

「んっ……」

　チュッと軽いキスをした。

　レイン先輩はうっとりとした表情を浮かべる。

　俺も幸福感に満たされた。

「タカシさん……。愛してます……」

「私もですよ、レイン先輩」

　俺たちは再びキスをする。

　レイン先輩は恥ずかしそうに笑うと、こう言った。

「タカシさん……。その……」

「なんですか？」

「実は、もう一つお伝えしたいことがありまして……」

　レイン先輩はもじもじと体を動かす。

　そんな姿が可愛くて仕方ない。

「その……子どもが……」

「えっ！？　本当ですか！？」

　俺は思わず大声を上げる。

　レイン先輩は照れくさそうに笑った。

「はい。お医者さんによると、ほぼ間違いなく妊娠していると……。男爵様にも報告して、しばらくメイド業務は休ませてもらうことになりました」

「おおっ……」

　俺は思わず天を仰ぐ。

　それからレイン先輩を抱きしめた。

「ありがとうございます、レイン先輩！　本当に嬉しいです！！」

「私も……タカシさんとの子どもを授かることができて幸せです」

　レイン先輩が俺の胸に顔をうずめてくる。

　そんな彼女が愛おしくて仕方ない。

　俺たちの幸せな未来のため、俺はこれからもバトラーとして精進していこうと心に決めたのだった。