俺はリリアンと談笑した。
そして他の者への挨拶をどうしようかと悩んでたときに、声をかけられる。
「おうおう! 俺たちも一言、挨拶させてくれや!!」
そう言ってきたのは、屈強な体格をした男たちだった。
彼らは見覚えのある顔だ。
「ふむ……。確か、『海神の怒り』だったか? それに『海神の憤怒』もいるな。ボランティア活動に従事していると聞いていたが……」
俺は彼らに言う。
前者は、チンピラ集団だ。
俺が『海神の大洞窟』に軟禁されていたとき、わざわざやって来て絡んできたことがある。
そして後者は、その上位組織のような位置づけだ。
人族への偏見や嫌悪感が強めの若者で構成されている。
適度に制御するためにエリオットが形だけの代表を務めていたのだが、闇の瘴気に汚染されたエリオットは彼らを率いてクーデターを起こしたのだった。
「おうよ! あの時は世話になったぜ!!」
「おかげさまでな!!」
「ギャハハハハ!!」
彼らは豪快に笑う。
ちょっと反応に困るな……。
彼らも瘴気の影響は受けていたが、エリオットほどではない。
半分くらいは正気だった。
元々の人族への偏見や嫌悪感に加え、組織の代表であり王族でもあるエリオットが暴走したことで、勢いのままクーデターに参加した感じだ。
クーデターは大罪であり、半分ほどは正気だったのであればやはりそこそこの重罪だ。
しかし、汚染度の差があるとはいえエリオットは実質的に無罪放免。
あまりにも対応に差をつけるのもアレということで、彼らにはボランティア活動が言い渡された感じだ。
「元気そうだな」
とりあえず、俺はそう無難に返す。
半分ほど彼らを汚染していた瘴気は、事件後に俺が浄化した。
今は本来の彼らに戻っている。
だが、その『本来の彼ら』というのは、すなわち『人族への偏見や嫌悪感が強い彼ら』である。
これについては闇の瘴気は直接関係ない。
俺としては複雑な心境だ。
「おうよ! 元気にやってるぜ!!」
「ボランティア活動も悪くねぇしよ!」
「感謝されて悪い気はしねぇよな!!」
彼らは口々に言う。
チンピラや若手兵士の集団だが、ボランティア活動は順調にこなしているらしい。
人族嫌いや瘴気により俺への当たりは強かったが、人魚族同士なら問題ないようだな。
まぁ、考えてみれば当たり前のことか。
「それは良かった。聞いているかもしれないが、俺は近いうちに旅立つ予定でな。今までのことは水に流して、気持ちよく別れようじゃないか」
俺はそう言って手を差し出す。
すると、彼らのリーダー格の男が俺の手をガシッとつかんだ。
「おうよ! こっちもそのつもりさ!!」
「おお、ありがた――」
「――なんて言うと思ったか、ボケェッ!!」
「なにっ!?」
握手中の俺の右手が、力強く握りしめられる。
なかなかのパワーだ。
若手兵士やチンピラの集団とはいえ、そのトップ層ともなればそれなりに鍛えているらしい。
「友好的な人族だぁ? 人魚族の文化に理解を示す人族だぁ? そんなモン、いるわけねぇだろ! パーティー会場に人魚が集まっているのはちょうどいい! まずはお前らが抱いている、その幻想をぶち殺す!!」
リーダー格の男が叫ぶ。
それに応じて、他の面々も動いた。
この期に及んで武力行使でもするつもりか?
俺に勝てないことぐらい、理解していそうなものだが……。
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