俺はリッカに対してラッシュを決めた。
もう少し手加減した方が良かったかもしれない。
そんなことを思ったのだが――
「【ヒール】」
リッカは自身に治療魔法を掛け、すぐに立ち上がった。
「痛かったです。でも、この程度でやられる僕様ちゃんではないです」
「タフな奴だ」
「僕様ちゃんは強いですから」
「確かに、強いな」
俺とリッカは向かい合う。
聖ミリアリア統一教会の聖女。
その実力は本物だ。
「さて、仕切り直しと行こうじゃないか」
「望むところです」
俺とリッカは、それぞれ拳を構えて前に出る。
「――【ファイアー・レーザー】!」
「無駄です」
俺の放った炎の光線を、リッカは拳一つで打ち消す。
「【アイスレイン】!」
「効かないです」
今度は氷の弾丸を放つが、それも同じように弾かれる。
リッカにダメージはないようだ。
「君の実力はそれで全てですか? 思ったよりは上だったですが、『勇者』と呼ぶには物足りないです。ソフィアのバカは過大評価してるです。真に受けた枢機卿が君を『勇者候補』に挙げたのも、間違いだった可能性が高いです」
「……なんだと? どういう意味だ?」
「タカシ=ハイブリッジでは勇者として実力不足だと言っているのです。『勇者』というのはもっと強く、気高く、崇高なものです。『聖女』たる僕様ちゃんが生涯を捧げて支えるべき方です。お前ごときが勇者なんてことはあり得ないです」
おーおー。
好き勝手言いなさる。
リッカの言葉を聞いて、俺は怒りを覚えた。
「勝手に来て暴れておいて、ずいぶんな言い草だな」
「……ほう? 怒りに伴って魔力が上昇したです。これなら……」
リッカの雰囲気が変わる。
先程までとは違い、殺気がこもっている。
「いいでしょう。君が真の力を出せるように、僕様ちゃんがお膳立てをしてあげるです」
「なに……!?」
俺が警戒するよりも早く、リッカが動く。
彼女の姿がブレたかと思うと――
「うああっ!?」
「ミティ!?」
ミティが再び殴り飛ばされた。
「次はこっちです」
「きゃああっ!?」
「アイリス!!」
俺が反応する前に、アイリスがミティと同じ方向に蹴り飛ばれた。
俺は彼女たちの元へ駆け寄る。
リッカの一撃を受けた二人は、ボロ雑巾のように地面に倒れていた。
腕力重視で攻撃極振りのミティ。
聖女のオーラに気圧されているアイリス。
彼女たちでは、リッカの攻撃に対応できなかったのだ。
「くそっ……。よくも、二人を……。許さないぞ」
俺は二人に治療魔法を掛けてから、再びリッカに対峙する。
「ふふふ……。いいですね。魔力がどんどん膨れ上がっているです。勇者としてはともかく、勇者候補として最低限の素質はあるようです」
「黙れ! お前はもう許さん。そんなに俺の全力が見たいのならば見せてやる!!」
「期待しているです。さぁ、来るです!」
俺は身体中に神経を巡らせる。
魔力、闘気、聖気……。
体内にある全ての力を呼び起こしていく。
長い長い詠唱と共に、俺の身体が輝き出す。
「た、タカシ様……! その魔法は……!!」
「ダメだよ、タカシ! 大地が……この大陸そのものが……!!」
ミティとアイリスが俺の後方から叫ぶ。
彼女たちが心配していることは分かる。
だが、男には引けない戦いがあるのだ。
「はっはー! リッカぁ! お前がいくら強くとも、この俺の本気の魔法を受ける度胸があるか!? ムリだろうなぁ!!! お前はただの臆病者だーーー!!!!!」
俺は力を練りながら、リッカに向かって挑発を行う。
彼女は俺の言葉にピクッと眉を動かす。
「この僕様ちゃんになんたる無礼……。いいでしょう。君の安い挑発に乗ってあげるです」
リッカが俺の正面に立ったまま、腕を組む。
俺はニヤリと笑う。
そして、練り上げた全ての力を解き放つ。
「【フィナーレ・フラッシュ】!!!!!」
瞬間、世界から音が消えた。
光の柱が勢いよく伸びていく。
それはまさに、世界を照らす閃光。
あまりの眩しさに、俺は目を開けていることさえできない。
「なっ! し、しまっ……」
リッカが小さく声を上げるが、光に飲み込まれたのかその声は聞こえなくなった。
――やがて光が収まり、目を開けることができるようになる。
俺はリッカがいた場所を見た。
「ぐ、ぐああぁ……。まさかこんな、僕様ちゃんが……」
リッカはそこにいた。
しかし、その姿はボロボロだった。
「へっ。ざまぁ見やがれ」
リッカが身に着けている神官服は焼け焦げ、肌はところどころ火傷をしている。
その顔からは余裕が完全に消え去っていた。
「さ、さすがはタカシ様……!」
「ちゃんと考えていたんだね。少しだけ上向きに魔法を放つことで、大地への影響を回避したんだ……」
ミティとアイリスが感心した様子で言う。
俺はBランク冒険者だが、実質的な戦闘能力で言えばAランクはある。
いや、こうして十分な詠唱時間を確保した上での攻撃魔法の威力だけに注目するなら、Sランク並と言っても過言ではないかもしれない。
このレベルになると、大地へのダメージを考える必要がある。
俺が発動した『フィナーレ・フラッシュ』だが、仮に地面に向けて撃っていれば、その衝撃で大災害が起きていたかもしれない。
俺はそれを防ぐために、あえてやや上向きに魔法を放ったのである。
「ば、バカなです……。なぜ、こんな奴がこんな力を……。あり得ないです……。こんなことがあっていいはずがないです……」
リッカは完全に戦意を喪失していた。
彼女の瞳には恐怖の色がありありと浮かんでいる。
俺はそれを見て、勝利を確信したのだった。
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