俺はエリオット王子から話を聞いている。
今回の襲撃では、防壁が壊されてしまったらしい。
「詳しい説明をありがとう。今さらだが、人族の俺にそこまで話しても大丈夫なのか?」
俺はエリオットに問いかける。
里の外周部の構造なんて、かなりの機密事項のように思えた。
しかし彼は特に気にした様子もなく答える。
「ジャイアントクラーケン戦で負傷していた怪我人に加え、今回の件での負傷者たちをも治療してくれたからな。貴殿への信用度は高まり続けている。……メルティーネの伴侶として相応しいかは別だが」
「そ、そうか。何はともあれ、信用してくれているのはありがたい」
俺は頭を下げる。
やはり彼は王子としてしっかりとした判断能力を持っているように思える。
人族への偏見が軽めだ。
それはそれとして、重度のシスコンなのは間違いないだろうが……。
「今回の件で、貴殿に頼みたいことがある。治療魔法を行使したばかりで疲労しているだろうが、それでもお願いしたい」
エリオット王子は真剣な表情で言う。
どうやら、これからが本題のようだ。
「ふむ。疲労は気にするな。俺はタフなのが取り柄なんだ。何でも言ってくれ」
「感謝する。貴殿に頼みたいことというのは……防壁の復旧と強化だ」
「やはりその件か」
「ああ。作業員や戦士たちに総出で復旧させる予定だが……。正直言って人手が全く足りない見込みだ」
エリオットは深刻な表情で言う。
防壁の破損具合はまだ見ていないが、相当な激戦だったのだろう。
力仕事で頼りになる戦士たちは、ついさっきまで怪我で苦しんでいた。
もちろん、防壁の復旧に力を割ける状態にはない。
「貴殿はジャイアントクラーケンをあそこまで追い詰めた猛者だ。力仕事もできないことはないだろう? 是非、力を貸してほしい」
「もちろんだ。俺が役に立てるのなら全力で協力しよう」
エリオットの頼みに、俺は二つ返事で了承する。
こんな話を聞かされては断れない。
俺には土魔法もあるし、防壁の構造次第ではガンガン補修できるはずだ。
「よろしく頼む」
エリオットがそう言う。
俺が快諾したことに、彼はとても感謝してくれているようだ。
「別に構わないさ。ジャイアントクラーケンが討伐されたことも影響しているのだろう? ならば、半分は俺のせいみたいなもんだしな」
「む? いや、貴殿にそこまで責任を問うつもりはないぞ」
「細かいことはいい。それより、さっそく現場に行こうぜ」
俺はエリオットを促す。
やることが決まったのなら、さっさと動いた方がいい。
「すまんが、俺は俺でやることがある」
「ほう?」
「リトルクラーケンの追撃戦だ。撃退したばかりの今こそ、奴は少しばかり弱っておりチャンスとも言える。これを逃せば、また魔物を従えて襲ってくるかもしれないからな」
「なるほどな……。だが、戦力は足りるのか?」
俺はエリオットに尋ねる。
防壁を利用した状態でも、多数の怪我人が出ているのだ。
追撃戦ではさらに厳しい戦いになりそうだが……。
「案ずるな。奴が連れてきた魔物は、戦士団がほぼ討伐している。奴は今、単独で行動しているはずだ。休んでいるところを奇襲すれば、勝算は十分にある」
「俺が手伝えばより確実に――」
「人族の貴殿にそこまでしてもらうわけにはいかない。これは差別ではなく、ケジメだ。恥を忍んで防壁の補修作業は依頼したが、リトルクラーケンの討伐は俺たちだけで行う」
エリオット王子は、俺の提案をきっぱりと断った。
人魚としての矜持だろうか。
「そうか……。そこまで言うのなら、俺は手伝わない方がいいな」
俺は彼の判断に従うことを決める。
彼がリトルクラーケンを討伐して、俺が防壁を完璧に修復する。
それがベストだろう。
「なぁに、心配はいらないさ。脅威を排除できれば、ちょっとした宴でも開こう。そしてそこで……貴殿とメルティーネの件を改めて追及させてもらおうか」
「ふふっ。宴が楽しみだな。リトルクラーケンの討伐を願っている。メルティーネの件は……お手柔らかに頼みたいところだが」
俺たちは笑いあう。
そして、俺たちは別れたのだった。
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