「う……。あ、ああぁ……」
俺は頭を掻きむしる。
どうして俺は……流華を侍たちに引き渡したんだ?
いや、そもそもスリなんて見逃せばよかったんじゃないのか?
ヤマト連邦の実情からズレている、俺の倫理観や正義感。
それらを振りかざすことによって、流華をさらに転落させてしまった。
「クソッ!!」
俺は地団駄を踏む。
後悔してももう遅い。
そんな俺に、紅葉はおずおずと声をかけてきた。
「高志様……。その、流華さんを……」
「……ああ、そうだったな」
俺の愚行自体は、今はどうでもいい。
反省は後でもできる。
それよりも今は、愚行の結果の方をなんとかしなければならない。
俺は流華に向き直る。
彼は全てを諦めたような、力のない笑みを浮かべていた。
「見ての通りだ。オレみたいなスリは……死ぬしかないのさ」
「そんな……」
紅葉が絶句する。
彼女も、村では困窮していた。
他人事には思えないのだろう。
流華は言葉を続ける。
「どうした? てめぇがオレにトドメを刺してくれるのか?」
「違う。俺は……その……」
「ふん……。こうなっちゃ、もうオレはおしまいだ。煮るなり焼くなり好きにしやがれ」
「いや……そうじゃなくて……」
俺は何を言えばいい?
彼を救うためには……。
「ひ、左手はまだ無事だろ? ちゃんと働けば……」
「無理だな」
「なんでだ?」
「この手じゃまともな仕事なんてねぇよ。そもそも、前から仕事なんてなかったぐらいだからな」
「それは……」
流華はまだ子どもだ。
年齢は紅葉と同じく、12歳ぐらいだろう。
いや、それよりも少し下か?
現代日本なら、ヤンチャボウズとして小学校の先生を悩ませていそうな年齢だ。
環境次第ではそんな彼にできる仕事も少しはあっただろう。
だが、今のこの街にはないらしい。
「街の連中にも目を付けられてるしな。オレを雇うなんてあり得ねぇよ」
「…………」
彼はスリの常習犯だった。
取り締まる側の侍たちには警戒されているし、一般住民からも顔を覚えられているらしい。
「もう、オレを楽にしてくれ……。その握り飯は返すよ……」
流華が目をつむる。
もう彼は生きるのを諦めていた。
そんな彼を見ながら、俺は思う。
俺に何ができる? と……。
「……」
俺は流華を見る。
彼はやせ細り、明らかに栄養不足だった。
侍連中に制裁されたのか、全身がアザだらけ。
そんな彼に、俺は……。
「俺がなんとかする」
「え?」
流華が目を開く。
そして、俺に聞いた。
「なんとかするって……どうするんだ?」
「まずは治療だ。俺についてこい」
「治療……? ああ、医者にでも見せようってのか?」
「いや、そうじゃない。俺は治療魔法が使えるんだ。それで治療してやる」
「え?」
流華はぽかんとした顔になる。
そんな彼に、紅葉が言った。
「高志様はすごいんですよ! とってもお強いし、いろんなことができて……。流華さん、きっと元気になれますよ!」
「え? あ……?」
流華が助けを求めるように俺を見る。
そんな彼に、俺は言った。
「頼む、俺といっしょに来てくれ。考えなしの愚行の……罪滅ぼしをさせてくれ」
「あ、ああ……。分かったよ……」
流華が頷く。
こうして俺は、彼を治療することにしたのだった。
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