「まったく……。ナイトメア・ナイト殿もお人が悪い。無事に帰ってきていたのなら、一言声をかけてくださればよいものを……」
「本当ですの! 私たち、とっても心配していましたのよ?」
「いや、申し訳ない。その件については悪かったと思っている」
俺は頭を下げる。
今現在、俺はエリオット王子とメルティーネ姫の前で平謝りしていた。
「しかしだな、俺も悪意があったわけじゃないんだ。何というか、タイミングが悪くてな……」
想像してほしい。
自分が帰還したタイミングで、『恩人を救出しに行くぞ!』という集団がいたらどうする?
まさかその『恩人』とやらが自分のことだとは思うまい。
自分も疲れ果てていたならともかく、少しでも余裕があれば手伝いたいと思うのが人情だろう。
「貴殿の自己評価はおかしいぞ。『人魚族の大恩人』と言えば、貴殿以外に誰がいるというのだ?」
「そうですの! ナイ様はジャイアントクラーケン討伐の功労者で、治療岩で負傷者を治療して、防壁をたくさん補修して、瘴気に侵された兄様を正気に戻してくださいました! もう英雄……いえ、大英雄ですの!!」
エリオットとメルティーネは俺を褒め称える。
確かに、俺はそれらの功績を上げてきた。
特に、最後のエリオットの件は大きいだろう。
クーデターは、本来ならばかなりの重罪だが……。
俺が闇の瘴気をしっかりと浄化したこともあり、罪には問われないことになったらしい。
もちろん、王位継承権もそのままである。
このあたりは繊細な問題なので、俺がとやかく言うことではない。
しかし、俺が不在ならばどうなっていただろうか?
クーデターの成否にかかわらず、今のように笑い合っている状況はなかったかもしれない。
感謝の視線を向けてくる2人を見て俺は照れ臭い気持ちになり、苦笑した。
「こっちはこっちで打算ありきだったんだけどな」
俺は冗談めかして言った。
そこに、ネプトリウス陛下が話しかけてくる。
「うむ。打算というのは……ヤマト連邦とかいう島国に連れて行ってほしい、という件だな?」
「はい。何卒お願いしたいと思っています」
俺が人魚の里に来たのは、成り行きである。
ジャイアントクラーケン討伐後に気を失い、メルティーネたちに連れてこられたのだ。
あのままだと他の魔物の餌になっていただろうし、助けてくれたのはありがたい。
だが、それはそれとして、里での俺は軟禁されていた。
無理に脱出しようにも、ここは深海。
自力での脱出はほぼ不可能だ。
頑張れば海上までは到達できるかもだが、その先が厳しい。
ヤマト連邦までの距離は、まだまだ残っている。
「ここから東方に島国があることは把握している。それぐらいならお安い御用だ。とはいえ、魔物襲撃やクーデター騒ぎで、怪我人が多い……。今しばらくは待ってもらわねばならぬ」
「もちろんですよ。俺としても、里の人たちを放っておくわけにもいきませんしね」
ミッションの件もあり、俺は人魚族と親しくしてきた。
かなりの情が湧いている。
自分の都合を最優先するわけにはいかない。
ミティたちは心配だが、密かに続けていた『共鳴水晶』の情報共有によると順調に旅を続けている様子だ。
過度な心配は不要だろう。
「ならば良い。せめてもの感謝の気持ちとして、宴を開く予定だ。旅立つ前に、ゆっくり休んでいくが良い」
「ありがとうございます、陛下」
俺は頭を下げた。
エリオットもメルティーネも笑みを浮かべている。
いろいろあったが、全てが良い方向に収まった気がする。
あとは、宴会を楽しんでから、人魚たちにヤマト連邦の近海まで連れていってもらうだけだ。
……ああ、いや。
もう1つだけ用事があったな。
達成済みだが、その報酬は確認しておかねばなるまい。
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