俺がイリーナやレティシアと共に楽しんでいたところ――いや、言い間違えた。
俺がイリーナやレティシアから過酷な尋問を受けていたところ、ミティが駆け付けてくれた。
彼女が来てくれたからにはもう安心……と言いたいところなのだが、状況が少しマズい。
何しろ、俺は全裸でベッドに縛られてしまっているからな。
「タカシ様はどこです?」
「えっと……」
「あの……」
「「…………」」
イリーナとレティシアは口籠もり、目を見合わせる。
その様子にミティは首を傾げた。
ちなみに俺の位置取りだが、入り口付近から見てちょうど観葉植物や棚の影にいる形だ。
俺からは見えるが、向こうからこちらに気づくことは難しいだろう。
「どうかされましたか? 何か問題でも?」
「いや、その……」
「こちらにハイブリッジ男爵は来ておられませんよ。恐らく、まだ鍛錬場にいるのではないかと……」
レティシアが答えると、ミティは眉間にしわを寄せた。
「おかしいですね。確かにここにいるという情報を得たのですが……。まぁ、いいでしょう」
そう言うと、ミティは諦めて部屋を退出していく。
レティシアがホッと胸を撫で下ろした、その時だった。
「がっ!?」
「あなた、嘘を吐きましたね?」
一瞬で間合いを詰めたミティが、レティシアの首を片手で締め上げる。
ミティの剛腕にかかれば、いくら中隊長のレティシアといえども為す術はない。
「な、何を……!」
「この部屋からは、間違いなくタカシ様の匂いがします。あなたたちは何を隠しているのですか? 私からタカシ様を奪うつもりなら、容赦はしません」
「くぅ……。かはっ!」
ギリギリギリ……。
首に回された手に力が込められて、レティシアは苦しそうにもがく。
このままではマズいな……。
イリーナやレティシアには何とか誤魔化してほしいと思っていたが、ここまでガチでミティが怒るのは想定外だ。
俺もいっしょになって怒られるのを覚悟して、ここは声を上げるべきか。
”俺はここにいる”と……。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ミティちゃん!」
「イリーナ大隊長とか言いましたか。あなたも、タカシ様に危害を加えようとしている一人ですね? 今すぐこの場でボコボコにして差し上げます」
「そ、そんなことしてないってばー!! と、とりあえずレティシアちゃんを離してあげてよ。ねっ?」
「タカシ様のご無事を確認するのが先です!」
「ええっと、それはー」
チラリとイリーナが俺の方を見る。
そんな風に見られても、俺はまだ拘束を解けていないぞ。
尋問プレイを心ゆくまで楽しむために、結構ガチ目に拘束してもらったからなぁ。
……おっ。
ようやく左足の拘束が解けた。
こうなれば後は早いかもしれない。
しかしさすがに、あと数秒やそこらでは不可能だ。
何とかもっと時間を稼いでほしいと、俺はイリーナにアイコンタクトを送る。
すると、彼女は察してくれたのか小さくうなずいた。
「えっとね、ミティちゃん! タカシちゃんだけど……」
「はい」
「えっとね……。その……」
「早く言いなさい」
ミティは結構強気だ。
普段の彼女は温厚なのだが、俺に関することだけはこうして強気になるんだよな。
イリーナもタジタジの様子である。
「あはは。あのね。タカシちゃんは――」
「分かりました。もう結構です」
「へっ?」
「あなたと話していても埒が明きません。ここは自分の目で確かめます」
ミティはそう言うと、隊長室の奥――つまり俺のいる方向に向けて歩き始めた。
このままでは気付かれてしまう。
諍いをなだめるためにはいっそのこと全てを白状した方がマシか?
いや、今以上にギスギスした空気になる可能性も……。
うーむ、どうしたものか……。
「【クロック・ダウン】!」
お?
イリーナが強硬手段に出たようだ。
ミティの時間が遅くなった。
「……?」
「さぁ、レティシアちゃんを解放して……って、力つよっ!?」
「よく分かりませんが、私のパワーの前では意味のないことです」
「ちょ、ちょっと! ミティちゃん!? アタシの話を聞いて!!」
イリーナが必死に呼びかけるが、ミティの耳には届いていない。
彼女が持つ激レアな時魔法。
使い方次第ではとても強そうだが、無敵ではなさそうだ。
弱点の1つが、ミティのような超パワーを持つ相手だろう。
前提条件が何もない状態からであれば、イリーナが一方的にミティをフルボッコにすることも可能。
しかし、今回のように人質を取られた状態からだと、イリーナができることは限られてしまう。
あとは……。
ニムのように絶対的な防御力を持つ者への相性も悪いかもな。
「く~。こうなったら、アタシの奥の手も出しちゃうよ? いいの!?」
さすがは『誓約の五騎士』。
ただ相手の時の流れを遅くしたり、自分の時の流れを加速するだけではないらしい。
彼女の切り札がどんなものなのかは不明だが、今のミティに対抗できるような能力を持っているのだろうか。
「それはこっちのセリフですよ。あなた、私の方に構ってばかりでいいのですか?」
「へ? どういう――」
イリーナが疑問の声を上げたときだった。
「こっちの方から大きな音が聞こえたぞ!」
「なんてこった! 隊長室の天井が崩れている!!」
「まさか、隊長たちに何かあったんじゃないか!?」
「大変だ! 中に入って事態を確かめるぞ!!」
部屋の外から、そんな声が聞こえてきたのだった。
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