「お、おい! そ、その小僧は……!?」
「てめぇ、性懲りもなくまたスリにきやがったのか!」
流華の姿を見つけるなり、怒りの形相で叫ぶ男たち。
ここは大通り。
多くの通行人が往来する場所だ。
俺、紅葉、流華の三人は、そんな大通りに謝罪回りに来たのだ。
最初の方に謝罪した人たちは、そこそこそんなりと謝罪を受け入れてくれた。
事前に下調べして温厚そうな人たちから順に回っているので、ある程度は当然だが……。
謝罪回りが後半に差し掛かった今、こうして流華への恨みが強めな者たちも出てくる。
ここからが正念場だ。
「すまねぇ! 本当に悪かった!!」
流華が叫ぶ。
だが、そんな叫びなど聞こえないかのように、男たちは怒りを爆発させた。
「てめぇのせいで、あのとき俺は絶好の商品を仕入れ損ねたんだ!」
「死ね! とっととくたばりやがれ!!」
男たちが流華に石を投げる。
俺はすかさず彼らと流華の間に入り、剣で石をはじき飛ばした。
「おい! てめぇ、何しやがる!!」
「なんだ? 関係ねぇ奴は引っ込んでろ!!」
男たちはなおも流華に怒りの矛先を向ける。
だが、俺は一歩も引くつもりはなかった。
「俺は流華の保護者だ。彼は謝っている。許してやってくれないか?」
「ああ? 謝られても、金は戻ってこねぇんだよ!」
「そうだ。それに、こいつのスリのせいで資金繰りが……」
やはり、金の恨みは怖いな。
流華が盗んだ金は、さほどの大金ではなかったはずだ。
だが、タイミング次第によっては見かけ上の被害額よりも大きな損失になることもある。
「賠償の手続きはすでに進めている。侍が届けてくれるはずだ」
「なに? ……そうなのか?」
男たちの顔に動揺が浮かぶ。
俺は頷き、言葉を続ける。
「ああ、本当だ」
「……ちっ! だがよ、俺たちが受けた被害は……」
「分かっている。しかし、流華は反省しているんだ。どうか許してやってくれないか?」
俺は男たちに頭を下げる。
すると……男たちは顔を見合わせた。
「どうする?」
「まぁ……。賠償してくれて、反省もしているってんなら……」
男たちが流華に目を向ける。
そして、こう言った。
「二度とスリはするな! 分かったか!?」
「ああ! もう、絶対にスリはしねぇ!!」
「本当だな? 信じるぞ?」
「おう!」
流華が頷く。
そんな彼に、男たちは満足そうに頷き返した。
「……分かった。許してやるよ」
「いい保護者と出会えたようだな。もう悪事はするなよ」
「ああ。二度としないぜ!」
流華は力強く頷く。
どうやら、無事に和解できたようだ。
流華が完全に無罪放免となるには、賠償だけじゃなくて被害者たちからの処罰感情を薄める必要があったからな……。
これで問題なくなる。
ひと段落したら、そろそろ他の街へ行くのもいいだろう。
今なら、追っ手をかけられる心配もない。
俺はホッと胸を撫で下ろしたのだが――
「待てや! 俺は許してねぇぞ! このスリ野郎が!!」
――そんな怒鳴り声とともに、一人の少年が現れたのだった。
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