今日はガルハード杯本戦が行われる前日だ。
ミティ、アイリスとともに会場に来ている。
エドワードやマクセルの姿もある。
今日は、トーナメント表の組み合わせを決めるくじ引きが行われる。
このくじ引き自体も結構な余興となっているようで、すでにかなりの観客が入っている。
シードなどはないようだ。
過去の実績による出場選手や道場などからの推薦選手も、俺やミティと組み合わせ上は同格扱いとなる。
くじ引きによる、完全なランダムだ。
出場選手16人がステージに上がり、順番にくじを引いていく。
「マクセル選手! Dブロックの3番です!」
「エドワード選手! Cブロックの1番です!」
「タカシ選手! Aブロックの1番です!」
こんな感じで、16人全員がくじを引き終わった。
俺はAブロックの1番だった。
良いのか悪いのか、判断に困る番号だ。
ちょっと目立つし。
トーナメント表を改めて見る。
Aブロック1番、タカシ。
Aブロック2番、ミッシェル。
Aブロック3番、リルクヴィスト。
Aブロック4番、ウッディ。
Bブロック1番、ミティ。
Bブロック2番、マーチン。
Bブロック3番、ジルガ。
Bブロック4番、アイリス。
Cブロック1番、エドワード。
Cブロック2番、マスクマン。
Cブロック3番、サイゾウ。
Cブロック4番、ストラス。
Dブロック1番、ギルバート。
Dブロック2番、カタリーナ。
Dブロック3番、マクセル。
Dブロック4番、ラゴラス。
結構見知った名前が多い。
自分自身、ミティ、アイリスを除けば、俺が知っている人は9人だ。
Aブロック2番のミッシェル。
昨日焼肉屋で絡んできた青年だ。
若手実力派とか言っていた。
俺たちに気づかれずにコップを割る謎の技術がある。
要注意の選手だ。
Aブロック3番のリルクヴィスト。
青髪のイケメン青年だ。
昨日、リーゼロッテやコーバッツと揉めていた。
Bブロック2番のマーチン。
ミッシェルと同じく、昨日焼肉屋で絡んできたオネエ口調の青年だ。
散桜拳がどうとか言っていた。
こちらも要注意の選手だ。
Bブロック3番のジルガ。
先月の小規模大会の準優勝者だ。
決勝戦でのギルバートとの試合はハイレベルだった。
Cブロック1番のエドワード。
武闘神官として、見習いのアイリスを連れてあちこちを巡っている。
実力はよく知らないが、見習いではない武闘神官だ。
アイリスよりも格上だろう。
予選免除でこの大会へ出場しているし、実力は確かだと思われる。
Cブロック2番のマスクマン。
俺、ミティ、アイリスと同じく、昨日の予選を勝ち抜いてきた人だ。
昨日は地味な闘いが多かったようだ。
本戦ではどのような闘いを見せるか。
Dブロック1番のギルバート。
ラーグの街からこのゾルフ砦まで、護衛依頼でともにした。
この街にきてからも、先月の小規模大会で見かけ、メルビン道場を紹介してもらった。
小規模大会で優勝する実力を持ち、冒険者ランクもCランクである。
Dブロック3番のマクセル。
以前、ギルバートがマクセルについて何か言っていた気がする。
確か、”マクセルのやつに一矢報いてやる”という感じの発言だったはずだ。
ギルバートと同格か少し格上の武闘家と思われる。
冒険者ランクでいえばBランク相当かもしれない。
ぜひ彼の戦闘を見て、参考にしたいところだ。
Dブロック4番のラゴラス。
ラーグの街からこのゾルフ砦まで、護衛依頼でともにした。
彼とは一言も話していないので、人柄はよくわからないが。
冒険者ランクは、確かCランクだったはず。
ギルバートと同じくらいの実力者だと思われる。
逆に、出場選手で全く知らない人は4人だけだ。
Aブロック4番、ウッディ。
Cブロック3番、サイゾウ。
Cブロック4番、ストラス。
Dブロック2番、カタリーナ。
この4人の闘いも注視しておきたいところだ。
●●●
一方、その頃。
魔の領域にあるオーガとハーピィの国では、着々と侵攻の準備がなされていた。
王の執務室にて、兵が王に報告をしている。
『報告致します! 兵士たちの進軍準備が整いつつあります!』
『うむ……』
オーガの王はバルダイン。
筋骨隆々の壮年の男である。
彼の表情は晴れない。
『陛下……?』
『ああ、いや。……進軍準備、大義である! 近々侵攻を開始する! いつでも進軍できるようにしておけ!』
兵の前で、王が暗い顔をするものではない。
気を持ち直して、兵に指示を出す。
『ははっ』
兵は敬礼し、去っていった。
傍らにいたハーピィの女がバルダインに話しかける。
『あなた。王がそんな顔をしていては、兵や民が不安がるわ』
『ナスタシア。……お前は、今回の侵攻作戦をどう思う?』
ハーピィの女は、ナスタシア。
オーガの族長であるバルダインと、ハーピィの族長であるナスタシア。
彼らが婚姻関係を結んだことにより、オーガとハーピィの友好関係は強固なものとなり、国と呼べる集団となっていた。
さらに数年前には子どもも授かった。
オーガのとハーピィのハーフだ。
『難しい判断だけど……。評議会や今代の六武衆、それにあのセンとかいう女も交えて、さんざん話し合ったじゃない』
『そうなのだがな。ワシには、あのセンとかいう女が信用しきれないのだ』
バルダインがそうこぼしたとき。
空間がひずみ、1人の若い女が姿を表した。
「うふふ。私を呼びましたか?」
女は、怪しい目をしていた。
『ふん。呼んでなどおらんわ』
「まあつれない御方。……陛下は、今回の侵攻に気が進まないご様子。そこで、いいものをご用意致しましたわ」
センが、懐から角笛のようなものを取り出す。
『なんだ、それは』
「”誘引の角笛”でございますわ。ゴブリンやワイルドキャットなど、低級の魔物をある程度操ることができますの」
『ふむ。それを使って、魔物を人族にぶつけるというわけか』
「御名答でございますわ。これにより、あなた方の兵の被害は格段に少なくなることでしょう。六武衆も防衛に残すことができるようになります。……ただし、代償もありますの」
センがニヤリと笑う。
『なんだ。言ってみろ』
「誘引の角笛は、演奏者の命を削るのですわ」
『なんだと! そんなもの、使えるわけが……』
バルダインは、そんなものは使えないと即座に判断する。
彼は民のことを考える、優しい王だった。
王としては、優しすぎるぐらいであった。
「問題ありませんわよね? だって、この国には”祝福の姫巫女”がいるのですもの」
『ぬうぅ……』
『あなた……』
バルダイン王と、ナスタシア王妃は、悩む。
彼らにとって、祝福の姫巫女とは特別な意味を持つ存在であった。
「強力な再生能力と生命力を持つ、祝福の姫巫女。彼女であれば、誘引の角笛を吹いても命が失われることはないでしょう。……ひどい苦痛は伴うでしょうが」
『…………』
バルダインの顔が歪む。
「ここで決断なされば、兵たちの被害は確実に減ることでしょう。ご英断をお祈りしておりますわ」
センはそう言って、姿を消した。
『我は、どうすれば……』
後に残されたのは、バルダインとナスタシア。
2人の間には、重い沈黙が流れていた。
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