タカシが幽蓮たちとワチャワチャしている頃――。
ヤマト連邦『重郷地方』の轟藩(とどろきはん)で1人の少女が動き出そうとしていた。
「ここが……藩の名所、轟砂丘ですか」
少女は周囲を見渡す。
見渡す限りの砂地だ。
遠くに山々が連なっているが、それ以外は何もないように見える。
「お館様は……いったいどこにいらっしゃるのでしょうか……。それに、ミティ様たちも……」
少女は呟く。
この少女――ハイブリッジ男爵家のメイドにして、ミリオンズの末席であるレインは途方に暮れていた。
ヤマト連邦に上陸後、強制転移系の妖術で各地に散らされてしまったのだ。
魔道具『共鳴水晶』のおかげで、比較的近くにいる者たちの無事は判明している。
だが、ここ最近は共鳴水晶の調子が悪い。
これでは、迅速に合流することは難しかった。
「恥ずかしながら、同行者の中で最も無能なのが私です。下手に動かず様子を見るつもりでしたが……」
レインは状況を整理する。
ヤマト連邦への同行メンバーは合計で17人。
ハイブリッジ男爵家当主のタカシ。
ミリオンズメンバーのミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レイン。
想定外の流れにより同行した、ミリオンズ人外メンバーのティーナ、ドラちゃん、ゆーちゃん。
そして、ヤマト連邦への里帰りに密航を実行した神宮寺三姉妹だ。
17人は、いずれも確かな実力を持つ。
特に、当主タカシの実力は規格外だ。
ミリオンズメンバーも、それに準ずる力を持つ。
人外メンバーの底力には不明瞭なところもあるが、通常の人間よりもはるかに強い生命力を持つことは間違いない。
神宮寺三姉妹はヤマト連邦の出身であるため、それなりに土地勘はあるはず。
総合的に見て、ヤマト連邦の土地勘がなく、ミリオンズ末席で戦闘能力に少々の不安があるレインが動くのは悪手だと思われた。
「とはいえ、このまま手をこまねいているわけにもいきません。お館様ならどんな障害でも突破されるでしょうが……。私は、私にできるやり方で動くとしましょう」
レインは砂地を東に向かって歩く。
彼女が轟藩の西部に転移させられてから、既に2か月以上が経過している。
その間、現地の人々と交流して多少の情報を得ることに成功していた。
ヤマト連邦全体から見て、轟藩はやや西部にある。
東に向かえば、翡翠湖藩を経由して桜花藩に辿り着く。
物流の中心で『天下の台所』とも称される桜花藩に拠点を移せば、よりミリオンズメンバーに関する情報が集まるかもしれない。
魔道具『共鳴水晶』が不調な今、レインがそういった方針で動くのは理にかなったことだった。
「それにしても、砂丘は少し歩きにくいですね。なかなか時間が掛かりそう――おや?」
「……失礼。少々時間をいただきたい」
レインの前に女が現れる。
彼女は、レインの行く手を阻むようにして立ちはだかったのだった。
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