サリエの父ハルク男爵がやって来て数日が経過した。
合同結婚式は、あと数日後に迫ってきている。
ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。
当事者の親族でまだラーグの街に入っていないのは、リーゼロッテの家族であるラスターレイン伯爵家だけである。
「少し遅いな……。心配だ」
「そうですわね。お父様はしっかりした方なので、何かあったとは考えにくいですが……」
リーゼロッテの父はリールバッハ=ラスターレインだ。
ファイアードラゴンの件では、闇の瘴気の影響で判断力が鈍っていた。
しかし普段の彼は、伯爵家の当主として信頼できる知識と経験を持った立派な人物だ。
さらには、彼の妻でありリーゼロッテの母であるマルセラ、それにリーゼロッテの兄妹にあたるリカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルロッテも含めて、それぞれが高い戦闘能力を持つ。
かつてのミリオンズとの戦闘では、俺たちがアヴァロン迷宮の攻略とファイアードラゴン戦で消耗した上に雨天により火魔法の威力が減衰していたということもあり、全滅させられてしまったことがある。
そんな彼らが遅れている理由はなかなか思いつかない。
「まさか……魔物や盗賊にでも襲われたか? しかし、この辺りにそこまで強力な魔物や盗賊団がいるとは思えないのだが……」
「そうですわね。お父様たちが苦戦することはないと思います」
俺とリーゼロッテがそんな会話をしていたとき。
1人の少女がハイブリッジ邸に駆け込んできた。
赤髪の少女。
警備兵のクリスティだ。
「ご主人、また客人が来たぜ」
「来たか。どこの人だ?」
「青髪の……。ええと……」
「ラスターレイン伯爵家か?」
「ああ、それだ! その人たちだよ」
「分かった。準備しておこう」
俺とリーゼロッテの心配は杞憂だったか。
だが、それならそれで、一体なぜ遅れたのか?
俺はそんなことを考えながら、受け入れの準備を進めていく。
やがて、数台の馬車がハイブリッジ邸の前に泊まった。
青色を基調にした上品で豪華な仕立ての馬車だ。
家紋が入った馬車から、1組の男女が出て来た。
「おお、タカシ君。出迎えありがとう」
「リーゼも元気そうですわね。……でも、ちょっと太ったかしら?」
リールバッハとマルセラである。
「ようこそお越しくださいました」
「お久しぶりですわ。でも、お母様。失礼ですよ」
リーゼロッテが頬を膨らませる。
実際、彼女の体型は少し……。
いや!
これはこれで魅力的だ。
食っちゃ寝を繰り返して少々あれな体型になったとしても、リーゼロッテの魅力が下がることはない。
「まぁ、冗談よ。あなたの事を心配していたの。ちゃんと食事は摂っているみたいだし、健康面は問題なさそうですね」
「もう、お母様たら……」
リーゼロッテとマルセラがそんな会話をしている。
さらに続いて、馬車から3人の男女が降りてくる。
「お姉様! タカシさん! お久しぶりです!」
「また実力を上げたようだな……。体が引き締まってやがる」
「その通りですね。以前よりも格段に強くなっていると思います」
シャルロッテ、リルクヴィルト、リカルロイゼだ。
「そう言うそっちこそ、腕を上げているみたいだな。立ち上る魔力が以前と違う」
「ええ。私たちも日々研鑽を積んでいますから」
「伯爵家として、騎士爵家に助けられっぱなしじゃ格好がつかねえからな。何かあれば、いつでも力になるぜ」
「ありがとう。そのときはよろしく頼むよ」
俺たちはそう挨拶を交わす。
そんな俺たちの前に、また新たな人物が近寄ってきた。
「我が盟友タカシよ。また会えて嬉しいぞ!」
「こっちもだ。盟友シュタインよ」
俺と同じくサザリアナ王国の騎士爵を授かっている、”聖騎士”シュタイン=ソーマだ。
また、その妻のミサもいる。
今回の合同結婚式に彼らの親類はいないが、せっかくなので招待しておいた。
新郎である俺の友人枠みたいな感じだな。
また、貴族同士の付き合いという側面もある。
各貴族の第一夫人の結婚式には、可能な限り出席するものと聞いている。
第二夫人以下の結婚式の出席率はさほど高くなくていいらしいが、今回の俺の結婚式は第四夫人から第八夫人までが合同で行われる。
そのため、サザリアナ王国内の貴族は一通り顔を出してくれている。
さすがに当主本人や親類が勢ぞろいしているのは、新婦側の親類であるハルク男爵家とラスターレイン伯爵ぐらいだが。
その他の侯爵家や子爵家は、名代が来てくれている。
「やはりラスターレイン伯爵家の方といっしょに来たのだな」
「ああ。向こうから見れば、我がソーマ騎士爵領はちょうど通り道にあるからな。ついでだと言ってきてくれた」
ラスターレイン伯爵家とソーマ騎士爵領は隣同士だ。
そして、そこからずいぶん離れたところにハイブリッジ騎士爵領がある。
道中の安全性を考えると、いっしょに行動した方がいいだろう。
この2家は寄り親・寄り子として良好な関係を築いているそうだしな。
「それにしても、シュタインがいっしょに行動していた割には少し到着が遅かったな? 何か予期せぬアクシデントでもあったのか?」
ラスターレイン伯爵家は高い水魔法の実力を誇る。
一方で、近接戦も行えるのは当主のリールバッハと次男のリルクヴィルトぐらいだ。
魔物や盗賊団の奇襲を受ければ若干手こずることもあるかもしれないと思っていたが、近接戦でもかなり強いシュタインがいれば、その心配もなかっただろう。
「うむ……。実は、ちょっとな……」
シュタインが口籠る。
そして、後方の馬車を見やる。
ちょうど2人の女性が降りてきているところだった。
見覚えのある2人だ。
シュタインの妻ではない。
彼女たちは……。
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