「はぁ、はぁ……。よ、ようやく終わったぜ……」
「お疲れ様。流華」
俺は流華に労いの言葉をかける。
謝罪回りは無事に終わった。
今は宿屋の一室に戻ってきたところである。
例の侍にも、この件は報告しておいた。
金銭的な賠償に加えて謝罪回りまで終えた今、流華の過去の罪は遡及的に免責とされている。
現代日本とは少し法体系が違うようだが、そのあたりは気にしないでいいだろう。
とにかく、これで彼は晴れて自由の身となったのだ。
「はぁ、はぁ……。あ、兄貴……」
「ん?」
「その、ありがとうな。オレのために色々やってくれて」
流華がお礼を言う。
俺は首を振った。
「別に大したことはしてないさ。気にするな」
「で、でもよぉ……。兄貴がいなかったら、オレぁ……」
流華はうつむく。
彼は孤児であり、スリで生計をたてていた。
その生活は綱渡りのような、いつ転落してもおかしくないものだったのだ。
「お互い様さ。俺だって、余計な手を出して流華に迷惑をかけた。流華が死ななくて本当によかったよ」
「……っ! あ、兄貴!」
「おっと……」
流華が飛びついてくる。
俺は彼を受け止めた。
野郎をハグして喜ぶような趣味は持っていないのだが、ここで躱すのもマズイだろう。
それに、たとえ男であっても俺を『兄貴』と呼んで慕ってくれる相手だ。
無下に扱うことはできない。
俺は彼の頭をポンポンと叩いた。
「兄貴! オレ、一生付いて行きます!!」
「あ、ああ……そうか……」
やっぱり、彼はなんかヤバい。
男のくせに、妙な色気があるのだ。
衆道に目覚めてしまいそうである。
俺は内心の動揺を必死に隠す。
そして、話題を変えることにした。
「それにしても、流華」
「ん? どうしたんだよ、兄貴?」
「そろそろ着替えないか? その格好は少々……」
俺は彼の体に視線を向ける。
上半身はボロ切れのみであり、腹や脇が露出している。
胸部は辛うじて隠されているが、逆に言えばそれ以外の上半身はほぼ裸である。
下半身も際どい。
かなり短いズボンを穿いている。
太ももは丸見えであり、尻も半ケツ状態だ。
男とはいえ……いや、男のモノだからこそ、あまり視界には入れたくない光景である。
このままだと、間違いが起きてしまうことも否定できない。
「あっ……。や、やめろ。見ないでくれ……」
流華が慌てて俺から離れる。
顔を赤くし、モジモジとしている。
可愛いな……。
いや、何を考えているんだ俺は?
相手は男だぞ?
俺は必死に自分に言い聞かせた。
しかし、ちょっと前屈みになってしまう。
「と、とにかく! 着替えだ!!」
俺は強引に話を進めた。
これ以上は危険だ。
一刻も早く、平常心を取り戻す必要がある。
そのためにすべきことは、着替えだ。
薄着によって醸し出される妙な雰囲気さえなくなれば、俺が男相手にたかぶることもなくなる。
しっかりと心を落ち着かせれば、どうということもない。
そのはずだ。
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