「ちぃっ……! まだ倒れないのか!!」
俺はそう叫ぶ。
クラーケンは触手を何本か失っている。
本体にもかなりダメージが蓄積されたはずだ。
しかし、まだまだ戦闘続行には支障がないらしい。
全員がチクチクと攻撃を加え続けているが、致命傷は与えられていないのだ。
「こうなりゃ、大きめの攻撃をするしかないか……」
「私も合わせるわ。ハイブリッジ男爵」
「月? 俺とお前で合わせても……。ああ、いや……そうか」
俺は月の言葉に引っかかりを覚えたが、すぐに納得する。
月は影魔法の使い手だ。
攻撃に長けた魔法ではない。
しかし、この局面において使い道はある。
「いくぞっ! ――【影縫い】!!」
「【影縫い】!!」
俺と月は、同時に魔法を発動させる。
それは影属性の魔法である。
敵を影に縫い付けるイメージを持つ、行動阻害系・拘束系の魔法だ。
「グオオオオォ……?」
クラーケンの動きが少し鈍っている……ように見えなくもない。
さすがにこれだけの巨体だと、2人がかりでの影魔法でも効果がイマイチだな。
だが、一瞬の隙は作れたらしい。
ミリオンズでも古参の3人が、クラーケンに攻撃を加えるべく駆け出していた。
「ビッグ……」
「聖ミリアリア流奥義……」
「100万ボルト……」
3人が闘気や魔力を高めていく。
ミティ、アイリス、モニカの3人だ。
それぞれの大火力をぶつけるのだろう。
「グオオォーッ!!」
クラーケンが叫ぶ。
3人に向けて触手で攻撃するが、その動きは影魔法によって阻害されており鈍い。
彼女たちはそれを華麗に避ける。
そして――
「ボンバー!!!」
「爆撃正拳!!」
「雷華崩脚!!!」
3人の攻撃が炸裂する。
クラーケンの触手は数本吹き飛び、本体にもかなりのダメージを与えたようだ。
「やった~! 倒したんじゃない~!?」
「……す、すごい攻撃……」
「私たちの大勝利だよー!」
花、雪、ゆーちゃんが喜びの声を上げる。
俺はミティたちに労いの言葉をかけ――
「ま、待て……! まだ終わってないみたいだぞ!!」
――かけた言葉を、途中で打ち消した。
クラーケンがまた叫び声を上げたからだ。
そして、最初の方に切り落とした触手が少しずつ再生を始めている……だと!?
「お館様! クラーケンが……!」
「ああ! 再生しているぞ!!」
どうやら、クラーケンは触手を切り落としても生え変わるようだ。
生命力や魔力が続く限り、襲いかかってくるかもしれない。
俺たちは戦慄する。
厄介な相手だ……。
こうなれば、船への被害を考慮するのは止めだ。
「全員、総攻撃だっ! 手加減なしで叩き潰すぞ!!」
俺はそう叫んだのだった。
クラーケンとの戦闘を再開する俺たち。
再生しつつある触手や本体にも攻撃を加えていく。
「ピピッ! 【生命体焼却砲】!!」
ティーナが触手に向けて大火力で攻撃する。
クラーケンの一部が黒焦げとなった。
「【ブランチスピア】!」
「【ジャッジメント・レイン】!!」
さらに、サリエとリーゼロッテもそれに続いた。
それぞれ、物理寄りの植物魔法と水魔法だ。
「グオオォッ!?」
焦げた触手に攻撃が当たる。
これは相当なダメージを与えることができたようだ。
クラーケンは苦しそうに触手を引っ込めている。
「あの触手……根本から切れそうですね」
レインがそうつぶやく。
俺たちのここまでの攻撃により、少なくない数の触手を切り飛ばしたり痛めつけたりしている。
だが、その多くは先端部分への攻撃しかできていない。
根本からの切断に成功すれば、再生には相当な時間を要するはずだ。
「然らば、拙者が! ――【術式纏装・疾風怒濤】!!!」
蓮華がそう叫び、彼女の姿がかき消える。
そして次の瞬間には、焦げた触手の根本部分が両断されていた。
船の上から、クラーケンの後方まであれほど素早く移動して攻撃を加えるとは……。
「おおっ! やるな、蓮華!!」
俺は思わず叫んだ。
あれが彼女の纏装術。
速度・攻撃力ともに非常に優れた武技のようである。
「せいっ! はあああぁっ!! 今が好機!! このまま攻め続けるでござる!!!」
蓮華は触手への攻撃を続けながら、そう叫んだ。
大ダメージを与えて強気になっているのは分かるが……。
今の蓮華は孤立している。
ミリオンズの面々が船上で戦っているのに対して、蓮華はクラーケンの触手を深追いして海の上に出ている状況だからな。
「蓮華! 早く戻ってくれ! 海に落ちたらマズイぞ!!」
俺はそう叫ぶ。
だが――
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