【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1730話 底知れぬ脅威

公開日時: 2025年4月27日(日) 12:10
文字数:1,195

「そして死牙藩。ここには、俺が向かう」


 俺は短く、だが確かに告げた。

 空気が静まり返る。

 誰も言葉を挟まない。

 俺の決意が、場の全員に伝わったのだろう。


 流華の傷は、正直に言えば気がかりだ。

 六王獣の動向も無視できない。

 だが、何よりも懸念すべきは、白夜湖に潜む“謎の豪傑”。

 得体が知れぬだけに、あらゆる計算を狂わせる存在だ。


 その異質な気配は、ここからでもかすかに感じ取れる。

 まるで、空間そのものがわずかに歪むような、異界の門が開いているかのような圧。

 真正面からぶつかれば、俺でさえどうなるか分からない。

 チートで強化されたこの身体とスキルを以てしても、その気配は俺を怯ませるほどだ。


「それだと、本拠地が手薄になるけど……」


 静かに、しかし核心を突くように問いかけてきたのは景春だった。

 疑念ではなく、懸念の色を帯びた声だった。


「問題ないさ。お前がいるのだからな」


 俺は彼女を真っ直ぐに見据える。

 景春、前藩主にして、この国の内情を知る女。

 彼女がこの場にいる――それ自体が、この計画を成立させる礎だ。


「私を……信じてくれるの?」


 目を伏せ、わずかに揺れる睫毛の奥から、問いかけが洩れた。

 彼女の瞳は、何かにすがるようでもあり、何かを試すようでもあった。


「もちろんだ。自分の女にした奴を信じなくて、何が男か」


 冗談めかして言いながらも、俺の言葉には一分の揺るぎもなかった。

 盲目的に信じているわけではない。

 景春が藩主としての重責に耐えかねていたこと、俺に命を救われたことに恩義を感じていること、すべて承知している。

 そして何より――彼女の家族が、事実上の人質であることも。


 俺のチートスキルがあれば、特定の人物を傷つけることなどたやすい。

 景春が裏切って藩主に返り咲いても、俺からの暗殺を常に警戒する必要がある。

 自身への暗殺だけでなく、家族の暗殺までも含めて。

 そんなことは不可能だ。

 景春も、そのことに気づいていないはずがない。

 あえて口には出さないが。


「他の者たちも、異論はないな? 翡翠湖、虚空島には援軍を。俺は、死牙藩へ向かう」


 俺の声が、再び場を引き締める。

 誰も異を唱えない。

 皆、己の役目を悟った表情で頷いていた。


 外から、冷たい風が天守閣の狭間を抜けて一陣吹き込む。

 その冷気が、俺の背筋を刺すように這った。


 俺が向かうは死牙藩の白夜湖。

 神でも妖でもない、しかし“何か”得体の知れない存在がそこにいる。

 それは――俺のチートすら呑み込むほどの、底知れぬ脅威かもしれない。


「各自、出立の準備を進めろ。健闘を祈る」


 俺は焦りと不安を胸の奥に押し込み、配下を解散させる。

 そのまま、ゆっくりと天守閣を後にした。


 ふと立ち止まり、俺は振り返らずに、そっと空を仰いだ。

 雲間に滲む薄陽が、どこか遠くの戦火を予感させる。

 ――この戦いの果てに、何が待っているのかは分からない。

 けれど、進むしかないのだ。

 風が再び、今度は少しだけ温かさを含んで、俺の背を押した。

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