「なぁ……。いくらなんでも近すぎないか? ヨルク」
「何を言う! また彼らのような不埒者が現れたらどうするのだ! 私が傍にいて、そなたを守らねば!!」
ヨルクはそう言って、俺の腕をギュッと抱きしめる。
彼女は魔法師団の分隊長だ。
結界魔法の使い手であり、このパーティーでも要人警護を担当しているという。
俺がチンピラや下級兵士に絡まれたときも、待ったの声をかけてくれた。
そんな彼女が、俺の傍から離れようとしない。
俺は苦笑いした。
(これは……完全にべた惚れされているな……)
おそらくだが、自意識過剰ではなさそうだ。
ヨルクの態度が、それを雄弁に物語っている。
「堅物で有名なあのヨルクさんが……あんな表情をしているなんて……」
「これは驚きだ……」
「くそっ! 人族め! 俺たちのヨルクさんをたぶらかしやがって!!」
「人族がどうとかは関係ないだろ! 俺たちはヨルクさんの幸せを願うまでよ!」
「そうだ、そうだ!!」
俺が苦笑いしていると、周囲の人たちがそんな会話をしていた。
ヨルクはそれなりに有名人だったらしい。
まぁ、若くして魔法師団の分隊長を務めるぐらいだもんな。
優秀なのは間違いない。
その上、この美しさだ。
言い寄る男も多いことだろう。
(ヨルクのステータスは……)
彼女もまた、加護(小)の条件を満たしている。
侍女リマ、治療岩責任者リリアンに続いて3人目だな。
俺は彼女のステータス画面を表示して、確認する。
レベル?、ヨルク=アールト
種族:人魚族
身分:下級貴族
役割:魔法師団分隊長
職業:ーー
ランク:ーー
HP:??
MP:??
腕力:??
脚力:低め
体力:??
器用:??
魔力:高め
残りスキルポイント:???
スキル:
結界魔法レベル4(3+1)
??
彼女は下級貴族の生まれらしい。
そして、魔法師団分隊長という地位を併せ持つ。
王族ほどではないが、それなりに影響力は強そうだ。
「どうした? 私の顔に、何か付いているか?」
ヨルクは俺にすり寄りながら言う。
なんだか、色々と当たっていて恥ずかしいな……。
「いや、何でもないさ。とても可愛く美しい顔だなと思ってね」
俺は軽口で返す。
ヨルクは顔を真っ赤にした。
「か、可愛いなどと! そんな歯の浮くようなセリフを言って……」
「ははは、照れたか?」
「むぅ! もうよい!!」
ヨルクはそう言って、プイと顔を逸らす。
そんな俺たちの様子を、周囲にいる人たちは微笑ましそうに見ていた。
「もうすぐ、俺はこの国から旅立つ。人魚の里の安全は……ヨルク、お前に任せたぞ」
「……ああ。承知した」
彼女は元より優秀な結界魔法使いだった。
そして、俺の加護(小)の恩恵により結界魔法のスキルレベルが上がっている。
また、ステータス画面には表示されていないものの、他にも恩恵がある。
それは『全ステータスの2割上昇』だ。
俺がいなくなっても、彼女がいれば結界魔法の維持について心配は無用だろう。
俺はそんなことを考えつつ、ヨルクとの時間を楽しむのだった。
残るは……王族との挨拶ぐらいだな。
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