「おお、紅葉か」
俺の言葉に、紅葉はぱっと笑顔を浮かべ、駆け寄ってくる。
この近麗地方に来てから最も付き合いの長い少女――紅葉。
彼女は桜花藩の田舎の山村の出身だ。
かつては何の力も持たない、ちょっと物知りなぐらいの村娘にすぎなかった。
だが、いろいろな経緯を経て、今では植物妖術使いとして頭角を現し、桜花城でも有数の戦力となっている。
戦場では蔦や樹木を自在に操り、諸条件次第では桜花七侍を打倒できるほどだ。
それだけではない。
彼女には内政の補佐も任せており、その手腕は未熟ながらも着実に伸びている。
まだ経験不足なところはあるが、俺が付与した加護の恩恵を受けつつ今後も成長を続けるだろう。
いずれは戦力としても、内政官としても、一人前――いや、超一流の人材に成長するはずだ。
「どうしてこんなところに?」
俺は紅葉に問いかけた。
彼女の背後には、見覚えのある顔ぶれがいた。
侍や少女忍者たち――総勢、20人ほどか。
紅葉以外、全員が加護(微)を獲得済みのメンバーだ。
チートの恩恵を大きく受けているわけではないが、元々そこそこ優秀な連中が少しばかりでも強化されていると考えれば、悪くない戦力である。
それに、俺が桜花藩を支配した経緯を考えれば、現時点で加護(微)に至っているという点で悪くない忠誠心を持っていると言える。
「高志様を追ってきたのです!」
紅葉は誇らしげに胸を張りながら言った。
彼女はそのまま続ける。
「お一人で那由他藩に向かわれたと聞いて……。湧火山藩に流華くんと二人で行ったのも無茶でしたが、今回はまさかお一人で向かわれるなんて!」
言葉の端々に、心配と呆れの入り混じった感情が滲んでいる。
「あー……」
確かに、俺は単独行動を取った。
湧火山藩へ行ったときは流華と二人だったが、それでも周囲から見れば無茶に見えただろう。
今回はそれ以上に突発的な行動だったわけだ。
紅葉が心配するのも無理はない。
「最初が流華くんだったから、次は私か桔梗ちゃんだと思って、楽しみにしていたんですよ!」
「楽しみって……。別に、旅行じゃないんだからさ……」
「むー!!!」
紅葉は頬をぷくっと膨らませ、眉を吊り上げた。
この反応は、少しばかり怒っているときのそれだ。
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