俺は1人で20人以上の盗賊たちと戦っている。
今は、重力魔法のレビテーションで宙に浮いた状態だ。
「お前たちに面白いものを見せてやろう」
「なにぃ?」
「どうせハッタリだ。俺たちは、あいつが落ちてくるのを待てばいい!!」
盗賊たちが声を荒げる。
俺は頭の中で詠唱を続け、右手に魔力を集め続ける。
「はあああぁ……」
「なっ!? こ、これは……」
盗賊たちが目を見開く。
「ふははははっ! 感じ取れるか? この膨大な魔力を! 既にここら一帯を吹き飛ばせるほどの魔力がたまっているぞ!!」
「ば、バカな……」
「どこからそんな魔力が出てくるってんだ!」
「こんな魔力、今までに感じたことがねぇ……。こいつは一体……!」
「ひ、ひいいぃっ!!」
盗賊たちが余裕を失っていく。
俺はニヤリと笑い、右手に集めていた魔力を解き放つ。
そして、右の手のひらを天にかざした。
「これぞ魔法の限界点!! 【灼熱炎牙・極】! 発動ぉお!!!」
俺の手の平から生み出されたのは、地獄の業火を思わせるような超高温の火炎弾だ。
それは俺の身長の数倍まで膨らんだ状態で、俺の手のひらの上あたりに浮かんでいる。
その熱量は凄まじく、まるで太陽がもう一つできたかのように感じられた。
「な、なんだありゃあ!?」
「あ、ああぁ……」
「この世の終わりだぁ……」
盗賊たちが呆然と見つめる中、俺は灼熱炎牙・極の制御に集中する。
俺のすぐ近くにあるので、かなり熱い。
術式纏装『獄炎滅心』を密かに発動して熱耐性を上げていなければ、マズかったかもしれない。
「さぁ、盗賊団の諸君。まだやるかね?」
大魔法を発動した俺だが、別に盗賊たちを焼き払おうだとか自然を破壊しようというつもりはない。
あくまで無力化するために、ちょっと脅すつもりで発動しただけだ。
ただ、少しばかり威力が高すぎたようで――
「ひ、ひいいいぃっ!」
「許してくれぇっ!!」
「熱い! 熱いよぉ!!」
「助けてくれえっ!!」
盗賊たちが泣き叫ぶ。
超高熱の余波により、彼らの衣服が燃え始めているようだ。
それだけでない。
見ると、木々にも火がついているではないか。
このままでは山火事になってしまうな。
よし、そろそろ止めよう。
俺は灼熱炎牙・獄のコントロールに集中し、徐々に小さく――
「ちっ! なかなか制御が難しい」
自分で発動した魔法だが、思うように消せない。
あれ?
これって結構マズくね?
このままじゃ、自分の魔法で焼け死んでしまう!
「くっ……。はあああぁっ! どりゃあああぁっ!!」
俺は気合いを入れて、炎を上空に放つ。
そして、炎はそのまま雲を突き抜けて消えていった。
ふう……。
なんとかなったぜ。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
しかし、まだ後処理が残っている。
「【ウォーターボール】」
俺は水魔法を発動し、木々の消火活動にあたる。
これでもう大丈夫だろう。
「ふぅ……。ん? おい、お前たち何をしているんだ?」
盗賊たちは地面に座り込んでガタガタ震えていた。
「こ、降伏します……」
「どうか殺さないでください……」
「お願いです。見逃して下さい……」
命乞いを始める盗賊たち。
ああ、今の火魔法でビビっているのか。
一応、当初の目的は果たせたことになるな。
『何が魔法の限界点だ。それはお前の限界点だ』とか言われなくて良かったぜ。
「いいだろう。犯罪奴隷として、我がハイブリッジ男爵領で働いてもらうことにしよう。まぁ、余罪次第では別の刑になる可能性もあるがな」
犯罪奴隷とはいえ、密室や離島で働かせるわけではない。
時には一般住民とも関わる機会がある。
更生困難なガチクズや快楽殺人者などが混じっていれば、また別の刑を考える必要がある。
とりあえず、ラフィーナのいる村に行ってみるか。
俺の気配察知の能力によれば村人たちは健在のはずだが、やはり実際に見て確かめないと最終判断はできないからな。
「良かったじゃないか、お前たち。何やら『黒狼団』を兄貴と慕っていたな? これで一緒に働けると思うぞ」
無法者集団とはいえ、多少の仲間意識はあるらしい。
活躍の場さえ整えれば、意外に貢献してくれる可能性はありそうだ。
俺がそんなことを考えていると、後方からハイブリッジ男爵家の一行がやって来た。
戦闘が終わったのを見て、来てくれたようだ。
「タカシ様! ご無事ですか!?」
駆け寄ってきたのはミティ。
「ああ、問題ないさ。大したことのない相手だった」
結局、俺からの攻撃は何もしていないな。
ただ、大魔法を放つ素振りを見せて威圧しただけだ。
「あわわ……」
ハーピィの少女レネが目を見開いて、口をパクパクさせている。
「す、凄かったのです……。この世の終わりかと思ったのです……」
料理人ゼラも俺の魔法に驚いていたようだ。
あの大魔法は、遠くからでもよく見えたことだろう。
俺が強いことを情報として知っていても、やはり実際に見たら違う印象を持つよな。
レネとゼラの忠義度がいい感じに上昇している。
ラーグの街に帰還後も上手く交流できれば、加護(小)の付与を狙えるかもしれない。
直近での付与が無理だったとしても、ヤマト連邦での任務が終わってからまた狙えばいい。
2人とも非戦闘職ではあるが、加護は付与しておいて損はないだろう。
俺はそんなことを考えつつ後処理を終え、村に向かい始めたのだった。
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