「ぎゃはははは! 実に爽快な気分だ!!」
俺――高橋高志は、桜花藩の城下町を駆け回り続けている。
昨日の日中は、普段通りに諜報活動をした。
武神流道場に帰ったあと、師範とちょっとした問答もあったな。
その後は、心のもやもやの原因となっていた『光の精霊石』を闇魔法で封印して……。
すっきりした気分になった俺は、夜の諜報活動に乗り出した。
桜花城の素晴らしい闇の瘴気を目にして、闇魔法によってその瘴気を全て吸収。
さらにハイになった俺は、桜花城だけではなく城下町全体から闇をいただくべく、夜の城下町を駆け回って今に至るというわけだ。
「さて、中規模以上の瘴気は一通りいただいたな。だが、まだだ。まだ足りない。ちょっとした闇ですら、今の俺にはご馳走となる……」
俺の中に、闇が満ちていく。
少し前に記憶喪失となっていた俺は、常に不安感を覚えていた。
何か大切なことを忘れてしまったような、そんな不安だ。
だが、今は違う。
闇は俺の心の隙間を埋めてくれる。
瘴気を吸収すればするほどに、俺の心は満たされていくのだ……。
「――うぐっ!? あ、頭が……!!」
不意に、軽い頭痛に襲われる。
何だ……?
この感じは?
「日差し……? そうか、いつの間にか朝になっていたのか。いや、朝というより昼前か……?」
俺は、いつの間にか日が昇っていることに気づいた。
どうやら、城下町を駆け回っているうちに夜が明けてしまったようだ。
いつもなら、爽やかな朝と感じていたかもしれない。
だが、今日は違う。
「はぁ……。少し疲れたな……」
俺は一般家屋の影に入り、一息つく。
体が重い。
どういうことだ?
闇を吸収した影響だろうか?
闇は素晴らしいものだ。
吸収すればするほど、俺は成長できる。
それは間違いない。
だが、闇を吸収した体は日光との相性が悪い……という可能性はあるな。
「まぁいい。原因の解明は急ぐこともないだろう。単純に、徹夜活動が体に堪えているだけかもしれないしな」
俺は軽く伸びをする。
次にするべきことは……
「そろそろ拠点に帰るか。昼寝すれば、この頭痛も治るだろう」
昼寝をすると、当たり前だが寝不足が解消される。
そして、時間経過により日が暮れ始める。
その2つの意味で、俺の調子が戻る可能性は高いはずだ。
俺は拠点に向かって歩き出す。
その道中、ふと思った。
「そうだ。闇の素晴らしさを前に、うっかり存在を忘れていたが……。俺には紅葉たちという大切な仲間がいたな」
山村の娘、紅葉。
元スリの少年、流華。
武神流師範の孫娘、桔梗。
いずれも、将来性豊かな俺の仲間だ。
「闇は素晴らしいものだ。3人にも、闇をお裾分けしてやろう。桜花城のクソ侍やそこらの一般住民にはもったいないものだが、かけがえのない仲間には別だ。この俺が直々に、闇の魅力を教えてやるとするか」
俺は道場に向かって歩きだす。
その足取りは、いつもより少し軽やかなものだった。
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