「うおおおぉっ! イノリぃ!!」
「きゃあぁっ!?」
俺はイノリに覆いかぶさる。
彼女の両手を抑え込むと、そのまま――
「せ、【斥】!」
「ぶへっ!?」
俺は謎の力によって弾き飛ばされてしまった。
イノリは乱れた巫女装束を直しながら、文句を言う。
「もう! 高志様! いきなり何をするんですか!?」
「い、いや……つい……」
俺は頭を掻きながら言い訳をする。
つい先ほど欲望を発散させたばかりなのに、こうしてまた暴走してしまうとは……。
不甲斐ない。
「イノリがとても魅力的だから、つい……」
「えっ……? あ、あの……その……」
俺の言葉にイノリが顔を赤くする。
するとカゲロウが呆れた様子で声を上げた。
「焚き付けたのは私とはいえ……。高志殿の女好きは凄まじいな。話が一向に進まんではないか」
「お、おう……。申し訳ない……」
俺は謝罪する。
確かにそうだ。
ここで彼女たちと楽しむのもいいが、俺には失われた記憶を取り戻すという重要な使命がある。
イノリの巫女装束の魅力に抗うことは容易ではない。
だが、ここは我慢しよう。
「それで? ええっと……何の話だっけ?」
「高志殿が桜花藩に向かう手段についてだ。私に策がある」
カゲロウが大きなため息をつく。
そんな彼女は、俺に対してジト目を向けてきた。
「……高志殿が桜花藩に向かうにあたって考慮すべき問題は覚えているか?」
「当然だ。確か……海路は物理的に危険で、陸路は政治的に危険……という話だったか?」
俺はカゲロウに確認する。
彼女はうなずいた。
「そうだ」
「ふむ……」
俺は地図に目を向ける。
海路と陸路が厳しいのなら……。
「ふっ。カゲロウが言う『策』とやら、この俺には見当がついてるぜ。超天才・高橋高志の頭脳を舐めてもらっちゃ困る。俺の閃きに不可能はない!」
「ほう……。戦闘能力だけの粗忽者かと思い始めていたのだが、それは私の勘違いだったようだな。それで、どんな策なんだ?」
カゲロウが聞いてくる。
俺は彼女にドヤ顔で答えた。
「それは……空路だ!」
「……は? 高志殿、今なんと?」
カゲロウが聞き返す。
俺はもう一度言った。
「空路だ」
「……正気か? 空は鳥しか飛べぬぞ?」
カゲロウが眉をひそめる。
うん?
この様子では、彼女の扱う妖術や忍術に飛行能力はないらしい。
「イノリも同じ認識なのか?」
「私ですか? そうですね……。一時的に跳躍する忍術はありますが、自由に飛べるわけではないですし……。強風時限定で、風に乗って飛ぶぐらいならできますが……」
「ふむ……」
俺は顎に手を当てて考え込む。
本当に彼女たちに飛行能力はないのだろうか?
「もっと特殊な術なら?」
「……強いて言えば、他者の幻影を纏う『英霊纏装・並行幻影の術』ぐらいでしょうか」
「なんだ、あるんじゃないか」
俺はイノリに言う。
彼女たちにも飛行能力があるなら、話は早い。
桜花藩への空路について、もう少し詰めていこう。
彼女たちに道案内してもらえればベストだが……。
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