「せぇい!」
「ふっ……!」
俺は、桔梗と相対している。
彼女の攻撃を軽く受け流す。
相変わらずの素晴らしい剣筋だ。
しかし……。
「隙ありっ!」
俺は木刀を突き出す。
狙いは、彼女の手首だ。
「あうっ……!」
桔梗が木刀を取り落とす。
彼女は小さく息を吐いた。
「……負けちゃった」
「よし、これで連勝だな」
俺はグッと拳を握る。
今日、俺は桔梗に2連勝した。
闘気や魔力を封印した上で、武神流の師範代である桔梗に連勝したのだ。
俺自身の戦闘能力もかなり向上しているということだろう。
だが、少し気になることもあった。
「桔梗、何か悩んでいるのか?」
「えっ……!?」
桔梗は驚いた顔をする。
そして、少し目を伏せて呟いた。
「……分かるの?」
「ああ」
俺は頷く。
彼女の動きに精彩がないのは、もちろん気付いていた。
だが、その原因までは分からない。
やはり、この武神流道場の師範代として戦っていることが重圧になっているのだろうか?
……いや、そういった事情は昨日までも同じだった。
昨日は普通で、今日は動きに精彩がない。
何らかの新たな問題が発生したと考えるべきだろう。
よく見れば、アザにならない程度の打撲が体のあちこちにある。
1つや2つなら、日常生活でのうっかりによるものとも考えられるが……。
それが全身にあるのは、妙だ。
「悩んでいるなら話してくれないか? もしかしたら、力になれるかもしれない」
「ありがとう……。でも……」
桔梗は言い淀む。
絶対に言いたくない、という雰囲気ではない。
だが、彼女は迷っているようだ。
「俺が信用できないか?」
「……ううん。高志くんのことは信頼してる」
「じゃあ、話してくれよ。俺は君の力になりたいんだ」
「駄目」
桔梗は首を振る。
俺の申し出を、きっぱりと拒絶した。
「これは……武神流の問題だから……。武神流の誇りに懸けて、私が解決する……」
「そうか……。なら、俺はこれ以上は踏み込まない」
桔梗が拒絶するなら、仕方ない。
彼女は武神流の師範代だ。
まだ若いとはいっても、その誇りと責任感は一人前の大人にも負けないだろう。
そんな彼女が『武神流の問題は武神流で解決したい』というのであれば、俺が口を挟むべきではない。
「だが、1つだけ約束してくれ」
「何……?」
「もし、どうしても君1人で解決できないようなら……。その時は俺を頼ってくれ」
「……うん。分かった」
俺は桔梗と約束を交わす。
彼女のことは心配だが、俺が勝手に介入していいような問題ではない。
この約束が、少しでも彼女の力になってくれればいいのだが……。
「じゃあ、鍛錬を再開するよ……」
「ああ、よろしく頼む」
俺と桔梗は再び木刀を構える。
そして、2人だけの鍛錬を再開した。
俺との約束が多少の救いになったのか、彼女の表情はほんの少し晴れやかに見える。
こちらとしても、このまま憂いなく桜花七侍との戦いに向けた鍛錬を続けていきたいところだが……。
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