ブギー盗掘団の捕縛作戦が無事に成功し、ラーグの街に戻ってきて数日が経過した。
この数日間は、俺たちミリオンズはのんびり過ごしている。
冒険者ギルドでは、盗掘団の捕縛作戦における各人の功績を算定中である。
期待していた先遣隊があっさりと全滅してしまったことだし、評価には苦労しているかもしれない。
ラーグの街の警備隊では、ブギー盗掘団の面々を勾留している。
近いうちに王都から裁判官がやって来て、判決を下すそうだ。
まあそれほど重い罪にはならないはずだが。
彼らはそれほど悪人ではないようだしな。
ソフィアたち”光の乙女騎士団”は、既に自由の身となっている。
彼女たちは盗掘団と通じてはいたものの、盗掘などに直接加担していたわけではないためだ。
ただし、冒険者ギルドにわざと不正確な情報を渡したり、俺たち先遣隊の妨害を行ったりした罪はある。
厳重注意の上、いくばくかの罰金が課せられたそうだ。
ナーティアやパームス、それに他の元記憶喪失者たちは、他の盗掘団の面々と同じく勾留されている。
ただし、こちらは近い内に釈放される予定である。
決して無罪というわけではないが、逃亡の恐れが極めて低いと判断されたためである。
ブギー盗掘団のもともとのメンバーと比べて活動歴が浅いし、記憶喪失という点で情状酌量の余地もあるしな。
俺としても、特にナーティアとパームスの罪は軽くなってほしいところだ。
彼女たちはモニカとニムの親だからな。
それに、ダリウスやマムとの再会も気になるところだ。
……ん?
そういえば、少し前にも思ったことだが。
ダリウスとマムは近い内に再婚するんだよな。
本来であれば、実にめでたいことだ。
しかし今回の件で、実はそれぞれの伴侶が生きていたことが発覚し、無事に街まで戻ってきたわけだ。
これはどうなるのだろう。
モニカやニムから、既にダリウスやマムには報告されているはず。
ナーティアとパームスが無事に釈放されたら、当然ダリウスやマムに会いにいくだろう。
少しややこしい事態になるかもしれない。
……うん。
俺があれこれ考えても仕方がないな。
とりあえず、今は置いておこう。
今日はそれよりも、優先したいことがある。
「さて。今日は冒険者ギルドに呼ばれているのだったな」
「そうだね。今回の捕縛作戦の件だって聞いてるけど」
「た、楽しみですね。わたしはたくさんがんばりましたし」
俺、モニカ、ニムがそう言う。
モニカとニムは大活躍だったそうだし、期待できるだろう。
ユナも堅実に活躍したと聞いている。
「私はだいじょうぶでしょうか……。特別表彰を取り下げられたりはしませんよね……?」
「うーん。どうだろうねー。ボクも緊張するなー」
ミティとアイリスがそう言う。
彼女たちと俺は、先遣隊として少し失態を犯してしまった。
さすがに特別表彰を取り下げられたりはしないと思うが、さほどのプラス評価はないかもしれない。
とはいえ、少人数で盗掘団のアジトに乗り込み、それなりの打撃を与えたことは事実だ。
ある程度の評価がされていることに期待したい。
「ふふん。まあ、なるようになるわ。さあ、行くわよ!」
ユナがそうまとめる。
そして、俺たちミリオンズは冒険者ギルドに向かって歩き始めた。
●●●
冒険者ギルドの中には、人がたくさんいた。
ざっと30人以上はいる。
捕縛作戦に参加した人たちだ。
マクセルたち”疾風迅雷”、ギルバートたち”漢の拳”。
それに”ラーグの守り手”などの面々もいる。
ちなみにソフィアたち”光の乙女騎士団”はここにはいない。
彼女たちは捕縛作戦に参加していたわけではないためだ。
人混みをかき分け、受付嬢のネリーのところまでたどり着く。
「ネリーさん。すごい人ですね」
「タカシさん。お待ちしていました。お伝えしていました通り、盗掘団捕縛作戦の功績を発表する予定です。報酬金もお渡ししますよ」
「わかりました。ドキドキします」
「ふふ。ここだけの話、タカシさんは期待していいと思いますよ。私も活躍の内容は聞きました。……おっと。続きはギルドマスターのマリーからとさせていただきましょう。もう少々お待ちください」
ネリーの言葉に従い、俺たちは待つ。
俺は、期待していいのか。
そう言われると、緊張が増してきた。
受験の合格発表のような気分だ。
しばらくして、マリーがやってきた。
「皆の者。よく集まってくれた。これより、捕縛作戦の功績の発表を行う。また、後で追加の報酬金の支払いも行っていく」
功績は、みんなの前で大々的に発表される。
報酬金については、内々での処理となる。
街に帰ってきた日に仮の報酬金は一律で受け取っている。
今回は、各人の活躍度に応じて追加の報酬金をもらえるというわけだ。
「まずは……。勲一等。”紅剣”のタカシ!」
「え? あ、ああ」
さっそく俺の名前が呼ばれた。
俺が1番の功績か。
少し予想外だ。
まあ、じゃあ他にだれが活躍したかと言われると、確かに微妙なところだしな。
消去法か。
俺はマリーの近くに歩いていく。
「先遣隊として盗掘団に大打撃を与え、捕縛作戦終了後には記憶喪失者の記憶の復元にも貢献した! 闇の瘴気の影響により暴走気味だったのは減点対象ではあるが、それを補って余りある活躍だ。今後にも期待しているぞ!」
「わかりました。闇の瘴気に気をつけつつ、今後もがんばります」
俺はそう返答する。
記憶の復元も功績に算定されているのか。
それならば、勲一等も妥当かもしれないな。
アイリスの評価にも期待できそうだ。
闇の瘴気には気をつける必要があるが、俺にはソフィアからもらった光の精霊石がある。
もう俺に死角はないと言っていいだろう。
「タカシの冒険者ランクはBに昇格となり、ギルド貢献値も8000万ガルに引き上げだ! そして、国に叙爵の推薦もしておいたぞ! 現在、上層部で審査中のはずだ」
「おお! ありがとうございます」
Bランクか。
とうとう、アドルフの兄貴やレオさんと同じランクにまでたどり着いた。
俺が知っている限りでは、Bランクはこの2人だけだ。
冒険者として、かなりの高みにまで来たと言っていいだろう。
そして、ギルド貢献値も8000万ガルに引き上げとなる。
1億の大台が見えてきた。
さらに、叙爵の推薦までしてくれたという。
やはり、俺が叙爵の第一の候補と考えていいのだろう。
闇の瘴気による暴走はマイナス評価ではあったのだろうが、だからといって即対象外になるほどのマイナスでもなかったといったところか。
まあ、あれは不可抗力みたいなものだしな。
俺はマリーのもとを離れ、下がる。
「さすがは俺が見込んだ男だぜえ。やるじゃねえか」
「くっくっく。タカシが貴族になるのか。今のうちに媚を売っておくか」
「やめてくださいよ、ウェイクさん。気が早いです」
まだ本決まりではない。
あくまで、冒険者ギルドのギルドマスターが推薦してくれたというだけだ。
なんだかんだあったが、俺にとって今回の盗掘団捕縛作戦は概ね成功だったと考えていい。
あとは、モニカやミティたちの査定がどうなっているかだ。
もちろん、彼女たちの冒険者ランクや貢献値も高ければ高いほどいい。
勲二等以下の発表を、楽しみに待つことにしよう。
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