俺たちは秘密造船所を見学していた。
そして、差し入れや治療魔法を使って、現場の士気を上げようと試みる。
すると、そこに思わぬ人物が現れたのだ。
「ナイトメア・ナイトさん!」
「タケシさんっ!」
「「…………え?」」
現れたのは、見覚えのある少女2人だった。
2人とも、驚いた表情をしている。
(俺を『ナイトメア・ナイト』と呼んだのは……スラム街で出会った少女か)
名前は知らない。
確か……彼女は『ダダダ団』から隠れるために、タルの中に潜んでいたのだったな。
それを怪しんだ俺は、彼女の体のすぐ近くを通るように剣を突き刺した。
そして、彼女は漏らした。
さらに俺は、オリジナルの火魔法『焼失』で非生物を焼き払った。
結果、彼女は全裸の状態で俺の前に姿を表したのである。
(もしもの時のために、少女用のパンツを常備しておいてよかったな……)
事実上、冤罪をふっかけてしまった俺。
せめてものお詫びとして、全裸の彼女にパンツをプレゼントしたのだ。
(俺を『タケシさん』と呼んだのは……魔導技師ムウか)
こちらは、つい今朝方に話したばかりの相手だ。
ここで、時系列を整理しておこう。
昨晩。
俺たちは『ダダダ団』を壊滅させるために動き出した。
タル少女と遭遇したのがこの時だ。
俺たちの動きに少し遅れて、冒険者や衛兵隊も動きだし、『ダダダ団』は本格的に壊滅。
早朝。
頭領リオンを海上で撃破した俺は、海岸線へ流れ着く。
エレナたち『三日月の舞』とアレコレ話したりラッキースケベを体験したりする。
宿屋『猫のゆりかご亭』に帰り、サーニャちゃん、モニカ、ニムと再会する。
魔導技師ムウが、『ダダダ団』の件で『Dランク冒険者タケシ』にお礼を言いに来る。
昼過ぎ。
俺は冒険者ギルドを訪れる。
職員たちが慌ただしくする中、秘密裏に頭領リオンを引き渡す。
夕方。
俺たちは秘密造船所を訪れ、現在の隠密小型船の完成状況を確認する。
そして今、タル少女や魔導技師ムウと遭遇したというわけだ。
(うん……。改めて整理しても、なかなかのハードスケジュールだな……)
地元マフィアの『ダダダ団』が壊滅したのだから、多少は仕方ないだろうが……。
魔導技師ムウなんて、救出された翌日だぞ?
Cランクパーティ『三日月の舞』ですら、本格的な活動再開はまだのはずだ。
(ムウが休む間もなく働く理由は……俺のせいでもあるんだよな)
隠密小型船の魔導回路部に、ムウが関わっている。
彼女が誘拐されていたため、作業が滞っていたのだ。
無事に救出された今、仕事を再開するのは当然ではある。
普通なら数日から数週間の療養が必要だろうが、この仕事はネルエラ陛下の肝入り案件だ。
休んでなどいられないだろう。
(だが、まさかこんなところで再会するとは……)
いや、タル少女はともかく、ムウとの再会リスクは十分に予想できた。
うっかりしていた。
俺の落ち度だ。
俺はどうしたものかと悩む。
だが、悩んでいる時間はあまりなかった。
「えっと……『ナイトメア・ナイト』さんですよね? ダークガーデンとかいう怪しげな集団を率いる……」
「いえっ! 彼はタケシさんですよっ! Dランク冒険者です! 私は知っています!!」
タル少女と魔導技師ムウが、困惑しつつも話しかけてきたからだ。
俺はこの街で、3つの顔を使い分けてきた。
平民『Dランク冒険者タケシ』。
ダークガーデンの首領『ナイトメア・ナイト』。
貴族『タカシ=ハイブリッジ男爵』。
この3つだ。
タイミング悪く、俺の異なる顔しか知らない者が集まってきてしまったことになる。
「「……」」
どうしよう?
無難な言い訳が、何かないか……。
「「…………」」
2人の視線が俺に集まる。
俺は困り果て、再び天を仰いだ。
その時――
「ムウ殿! メルル殿! 何をしておいでですか!?」
ゴードンが駆けつけてくる。
ナイス!
「ゴードン! ちょうどいいところに! 実は……」
助かった!
彼がいれば、話が早そうだ。
俺はそう思ったのだが――
「2人とも、早く頭を下げてください! 死にたいのですか!?」
「え?」
「ひゃっ!?」
ゴードンは2人の頭を軽く押さえつけ、無理やりに下げさせた。
まるで土下座でもさせるかのような勢いだ。
(いや、いくら何でもそこまでしなくても……)
ゴードンも微妙な立場だよな。
ネルエラ陛下直属の特務隊に所属し、秘密造船所の総責任者を任されるほどには優秀な男である。
だが、爵位持ちかつネルエラ陛下お気に入りの俺よりは目下だ。
それに、魔導技師ムウに対しても高圧的には接することができない。
社会的な立場としてはゴードンの方が上だろうが、この案件に関して言えば、彼は依頼する側だからだ。
さながら中間管理職。
彼の胃は大丈夫だろうか?
「申し訳ありません! ハイブリッジ卿! 私の監督不行き届きです!」
「お、おう。まぁ、気にするな。大したことじゃないからな」
必死の形相で謝ってくるゴードン。
俺は軽く返す。
「えっと……?」
「何事ですか……?」
タル少女とムウは、未だに事態が飲み込めていないようだ。
混乱している2人に、ゴードンが告げる。
「2人共! この方はハイブリッジ男爵様です! 怪しい方でもなければ、Dランク冒険者でもございません!」
「「えっ!? ……えええぇーーっ!?」」
ようやく理解が追いついたのだろう。
2人は大きな声を上げたのだった。
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