「ここはどこだ? ……俺は誰だ?」
俺は思わずつぶやく。
そして、周囲を見回した。
ここは……何かの遺跡の中か?
「……そうだ。俺は……高橋高志だ!」
俺は思わず叫ぶ。
そう……名前は思い出した。
しかし、妙な違和感がある。
俺の名前は……高橋高志。
それは間違いないはずなのだが……。
「俺は……俺の生きる意味は……」
俺は思わずつぶやく。
そして、ふと気付いた。
少し離れたところに、巫女装束の女性が倒れている。
どうやら意識を失っているらしい。
「あの女性は……?」
俺は巫女装束の女性に近付く。
そして、ゆっくりと抱き起こした。
「うっ……。あ、あなたは……」
「大丈夫か? ここで何が――」
「ひぃっ!? ど、どうして無事なのですか!? あばばばば……」
女性は俺に気付くと、途端に悲鳴を上げて後ずさりする。
そして、そのまま地面に頭をこすりつけた。
「せ、切腹しますっ! 今すぐに……。だからどうか、里のみんなは殺さないで……」
「待て待て! そんな物騒な……!」
俺は慌てて女性を止める。
どうして切腹なんてする必要があるんだ……。
「君は何者なんだ? ここで何をしていた?」
俺は気を取り直して女性に尋ねる。
すると、彼女は震えながらも口を開いた。
「そ、その節は大変な失礼を……。わ、私は地下遺跡を守護する巫女で……名をイノリと申します」
「そうか。俺は高橋高志だ。はじめましてだな」
「はじめまして……? ま、まさか記憶を失っているのですか!?」
「まあ、そうかもしれない」
俺は頷く。
自分の名前こそ分かるものの、それ以外の記憶があやふやなのだ。
「そ、そうですか……。しかし、いや、でも……。危険人物であることに変わりはありません……。は、早く里のみんなに連絡を……!」
イノリが怯えた表情を浮かべている。
危険人物って、もしかすると俺のことか?
うーん……。
困ったな。
俺は別に危害を加えるつもりはないのだが……。
「待ってくれ。俺の話を――」
「ひぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい! やっぱり連絡なんてしません! あばばばばば……」
イノリはひたすらに謝罪の言葉を繰り返している。
完全に怯えてしまっているようだ。
「お、落ち着けって。俺は別に君に危害を加えるつもりはない」
俺は慌てて言うが、彼女は聞く耳を持たない。
これは困ったな……。
どうしたものか……。
こんなときは……。
「君のように可憐な女性に、怯えた表情は似合わない。笑顔が一番だぞ」
俺はイノリの顎に手を当てて顔を上げさせる。
そして、優しく微笑みかけた。
「え……? あ……う……」
俺の突然の行動に驚いたのか、イノリが目を白黒させている。
手応えありか?
女性はやはり、愛でるに限るような気がする。
俺に特定のお相手がいたなら、浮気になってしまうが……。
どうだったかな?
よく思い出せない。
何か大切なことを忘れている気がするが、今はそれよりも目の前の事態への対処を優先したい。
「さぁ、笑ってくれ。俺の愛は無限大だ。君のような美しい女性に、悲しい顔は似合わない」
俺はイノリの顎に手を当てて上を向かせると、さらに顔を近づけた。
そして、彼女の瞳をじっと見つめる。
「あ……え……」
イノリは完全に呆けていた。
よし、いいぞ!
ここでさらに畳みかける……!
そう思った矢先――彼女は気絶してしまった。
「あふっ……」
「あ……あれ? おーい……」
俺の呼びかけも虚しく、イノリは意識を失ったままだ。
うーん……。
困ったな……。
俺は突然の事態に、思わず頭を掻いたのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!