「――はっ! ここは……?」
俺は目を覚ます。
そして、慌てて周囲を見渡した。
そこは隠密小型船の一室だった。
「さっきのは……夢?」
俺は少し呆然とする。
ふと周囲を見ると、俺の愛する女性たちが眠っていた。
彼女たちは一糸まとわぬ姿で横になっている。
「夢か……。そうだよな……。千秋があんなこと言うわけないもんな……」
俺は夢の中の千秋を思い出す。
高校時代の俺たちは、あそこまで進展してなかった。
おはようのチューなんて、したことがない。
それに、『わたしを助けて』というセリフもあり得ないだろう。
彼女は高校時代はもちろん、卒業後も順調な生活を送っていたはずだ。
一方の俺は、卒業後にいろいろとあって――
(クソっ! あまり思い出したい過去じゃないな……)
俺はそう思い、頭を振った。
今の俺にはチートスキルがある。
愛する妻たちがいる。
世界を救うというミッションがある。
地球にいた頃の過去なんて、どうでもいいじゃないか。
(……しかし、千秋の口唇は柔らかかったな……)
俺はそんなことを思ってしまう。
夢の中とはいえ、幼なじみの女子高生とキスできるなんて……。
(できれば、おっぱいも触りたかった……。惜しいことをした)
俺はそんなことを考える。
そして、不意に違和感に気づいた。
「……あれ? この感触は……?」
ふにっ、ふにっ。
俺は、自分の右手が何か柔らかいものをつかんでいることに気づいた。
「あぁ……ダメ……。おにーさん、そこは……」
「なっ!?」
俺の右手がつかんでいる柔らかいもの。
その正体に思い当たった瞬間、俺は慌ててベッドから飛び退く。
そして、その柔らかいものが何かを視認した。
俺の右手は、ゆーちゃんの胸をつかんでいたのだ。
「ゆ、ゆーちゃん……」
俺は驚きの表情を浮かべる。
まさか彼女の胸がこれほど柔らかいとは……。
「はぁ、はぁ……。ひどい目に合ったよ……」
ゆーちゃんは息を荒くしていた。
俺がおっぱいを揉んでしまったせいか……。
「すまんな、ゆーちゃん。寝ぼけていたんだ」
「うん、分かってるよ……。いきなりだったから、ビックリしたけどね……」
ゆーちゃんは自分の胸を手で隠しながら、少し頬を赤らめていた。
その仕草が妙に色っぽい。
まるで、生者のようだ。
「しかし、幽霊のゆーちゃんにこれほどしっかりと触れられるとはな……」
ゆーちゃんは、ラーグの街にある屋敷にいた幽霊だ。
当初は薄っすらとしか実体化できなかった。
だが、住人の魔力を吸って実体化が進み、今では俺たちでもはっきりと知覚できるようになった。
そして、アイリスに憑依することでラーグという土地への縛りがなくなり、こうして船旅に付いてきた感じだ。
幽霊だからゆーちゃん。
とても安易なネーミングである。
そう言えば、本名は知らないな……。
「ゆーちゃんのおっぱいは柔らかかったよ」
俺は先ほど感触を思い出す。
きっと、生前もかなり柔らかかったのだろう。
彼女の実体化が進んだことで、俺は彼女の胸を揉むことができた。
いろんな人が意識的・無意識的に魔力を捧げていってくれたおかげだ。
――感謝するしかないな。
これまでの、全てに。
「おにーさん、まだ寝ぼけてるの?」
ゆーちゃんは少し呆れ顔だった。
「いや、ちゃんと目は覚めてるよ。ただ、ゆーちゃんが可愛くてな……」
俺は素直に思ったことを口にした。
それを聞いたゆーちゃんは、少し顔を赤らめる。
「もぉ……。私は幽霊だよ? 可愛いわけないじゃん……」
「いや、そんなことないぞ。ゆーちゃんは可愛いよ。美少女だ」
俺はそう口にする。
すると、ゆーちゃんの顔がますます赤くなった。
(なんか新鮮な反応だな……)
俺はそう感じる。
ゆーちゃんは幽霊なので、あまりそういう対象で見ていなかったが……。
「おにーさん、あまり褒めないでよ……」
ゆーちゃんは照れている様子だった。
そんな反応も新鮮である。
いつもの彼女は、もっと掴みどころのない感じだからな。
幽霊だけに。
「照れてるゆーちゃんも可愛いな」
俺は素直な気持ちを口にする。
すると、ゆーちゃんは俺に背を向けてしまった。
その背中が震えているように見えるのは気のせいだろうか?
(もしかしたら、褒められることに慣れていないのかな?)
俺はそんなことを考える。
彼女が何年前の幽霊なのかは知らない。
ひょっとすると、今とは美醜の価値観も違うのかもしれない。
あるいは、美醜の感覚自体は同じでも、褒めてくれる知り合いがいなかったり……。
幽霊になってそれなりの年月が経過しているだろうし、褒められる感覚を忘れているだけの可能性もあるな。
「ゆーちゃん、こっちを向いてくれないか?」
俺は声をかける。
だが、ゆーちゃんは沈黙したままだ。
それを見て俺は――
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