俺は少女騎士たちと対峙している。
だが、彼女たちはなかなか動き出さない。
まるで、何かを言い淀んでいるかのようにも見える。
「おい、早くかかって来いよ」
「……そ、その前にひとついいですか?」
「なんだ?」
「その……なんで、イリーナ大隊長とキスをされたのですか?」
「ん? それはもちろん、彼女に俺のことを信じてもらうためだが……」
「「「…………」」」
少女騎士たちが無言になった。
そしてなぜか、顔色がどんどん赤くなっていく。
「あれ? なんか変なこと言ったか?」
「は、ハイブリッジ男爵には奥方がいらっしゃいますよね!?」
「それがどうかしたか?」
「どうかしたというより、なぜそのようなことをなさるのですかっ!」
「いや、そこに美少女がいればキスはするだろ。男として当然のことだ」
「「「…………」」」
またしても少女騎士たちが黙り込む。
「もういいから、早くかかってこい」
「で、では最後にひとつだけ……」
「なんだ?」
「私が健闘したら、私にもキスをしていただけますでしょうか!?」
少女騎士のひとり――ルシエラが叫んだ。
「……は? いや、まぁ、そのくらいなら別にいいけどさ。本当にそんなことでやる気が出るのか?」
「はい! 絶対出ます!」
「そうか。なら、がんばれよ」
「はいっ!」
こうして俺とルシエラは構え直す。
いよいよ試合が始まるかと思ったが――
「あっ! ズルい! 私もしたいです!」
「私もお願いします!」
「「「私たちも!!」」」
他の少女騎士たちも一斉に声を上げた。
なんでこんなに人気なんだ?
まぁ、平民から男爵まで駆け上がった俺は、相当な有望株であることは間違いないのだが……。
顔面偏差値は普通のはず……。
こればかりはスキル取得でどうにかなるものでもないし。
(いや、待てよ?)
そう言えば日々の冒険者活動や鍛錬を通して、精悍な顔つきになってきた気がしないでもない。
将来有望でイケメン、そして無類の女好きともなれば、ワンチャンの玉の輿狙いの女性が群がってくるのも当然の話か。
だが、俺の地位や金が狙いの女性にあっさり丸め込まれる俺ではないぞ。
ここは毅然とした対応を――
「ふっ、いいだろう。俺を倒したら、希望者全員にキスをした上、ハイブリッジ家に登用してやろう」
あれ?
内心で思っていたこととは違うことを話してしまった。
「「「きゃーっ!!!」」」
「ちょっ!?」
イリーナがまた何かを言い掛けたが、俺は目で彼女を制する。
男たるもの、前言を撤回するわけにはいかない。
「俺を倒せずとも、最も活躍した者はハイブリッジ家への登用を健闘する。そして俺に一太刀でも入れた者には、キスしてやると約束しよう」
「「「おお~っ!!」」」
よしよし、盛り上がってきたな。
「では、行くぞ」
「「「はい!」」」
少女たちが金属製の剣を構える。
俺も愛用の木剣――という名の木の枝を構えた。
そして、試合開始の合図を待つ。
「はじめッ!」
イリーナが右手を振り下ろした。
直後、まずひとりの少女が動いた。
「いきます!」
ルシエラが一気に間合いを詰めてくる。
速い。
だが、この程度なら対処できる。
「ハッ!」
俺は彼女の一撃を軽く受け流す。
そして、そのまま反撃に移る。
「せいっ!」
「くっ!」
ルシエラの鉄剣が俺の木の枝を受け止めた。
「ば、バカな……。なぜそんなもので剣を受け止められるのです!?」
「闘気を通しているからだが……」
「そ、それにしたって限度というものが……。ええい! みんな、今のうちよ!」
ルシエラの声に、残りの少女騎士たちが一斉に動く。
「ハァアアッ!!」
「セイヤァアッ!!」
「セェイッ!」
3人同時に斬りかかってくる。
なかなか息の合った攻撃だ。
だが――
「甘い!」
俺はルシエラの剣を止めていた木の枝をクルリと回転させ、逆に彼女たちの剣を巻き取った。
「うわわわわわわ!?」
「「「キャアアアアアッ!?」」」
少女騎士たちが悲鳴を上げる。
そして、彼女らの手から離れた剣が地面に落ちる前に、俺はそれをキャッチした。
「はい、没収っと」
「そ、そんな……」
「こ、これはいったい……」
「信じられません……」
少女騎士たちは呆然自失としている。
これでこの4人は脱落だな。
……ん?
ルシエラだけはまだ諦めていないような目をしているが……。
まぁ、剣を失っては何もできないだろう。
と、そんなことを考えているうちに、少し離れたところから魔力の波動を感じた。
俺はそちらに視線を向ける。
「脱落者はどいてなさいっ! いきますよ!」
「「はあああぁっ!!!」」
少女たちが何やら魔力を開放している。
俺を中央にした三角形の頂点に位置するように陣取っている。
あれは――
「【アイスボール】!」
「【エアバースト】!」
「【ストーンショット】!」
3種の魔法が発動。
氷弾、風刃、石礫が飛んでくる。
「ほう、魔法の使い手か」
初級とはいえ、一般人を含めれば使い手はめずらしい。
やはり騎士団。
優秀な人材が集まっているようだ。
「逃げ場はありませんよっ!」
「後詰め用意よし!!」
「お覚悟!」
他の少女騎士が剣を構えている。
この3種の魔法攻撃に手間取れば、容赦のない追撃がくるだろう。
(魔法や剣術込みなら、いくらでも対処方法はあるが……)
それ以外の技法でこの包囲網を無傷で突破するには――
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