ゴブリンの巣を目の前に、作戦会議をした。
参加者は、俺、モニカ、蓮華、キリヤ、ベアトリクスの5人だ。
「よし。みんな、準備はいいか?」
「うん。大丈夫だよ」
「バッチリだぜ」
「いつでもいけるでござる」
「……」
俺の確認に対して、3人とも力強く答えてくれた。
ちなみにベアトリクスは、俺たちの会話に加わるつもりはないようだ。
少し煽りすぎたか。
彼女は俺たちのやや後方で、そっぽを向いて待機していた。
まあいいさ。
万が一俺たちがピンチになったら、さすがのベアトリクスでも援護ぐらいはしてくれるだろう。
そもそもピンチになる気はないけどな。
「詠唱を開始しろ」
俺は短く指示を出す。
まずは合同魔法の出番だ。
俺、モニカ、キリヤが魔力を高めていく。
そして、詠唱が終わる。
「「「デス・パラライズ」」」
強力な雷の合同魔法が炸裂した。
対象はゴブリンとオークたちだ。
巣全体を覆うように雷撃がほとばしる。
「ギィッ!」
「グゥッ!」
「ギャアァッ!」
麻痺の効果が発揮されたのか、ゴブリンとオークたちがバタバタと倒れていく。
これでほとんどの敵が動けなくなったはずだ。
まだ息はあるだろうから、トドメは必要だが。
「なっ……。なんだこの魔法は!?」
ベアトリクスの驚く声が聞こえた。
さっき説明しただろ。
拗ねて聞いていないからそうなるんだ。
「これが俺たちの合体技だ」
俺は得意げに言った。
この合同魔法は、初級の雷魔法であるパラライズを応用したものである。
3人の魔力を融合させ麻痺の効力を上昇させたのだ。
ハイブリッジ家もずいぶんと大所帯になった。
同じ属性の魔法を扱える者も多い。
定期的に合同魔法の鍛錬を行っている。
魔法のイメージやお互いの信頼感が大切な合同魔法だが、俺が核となることで効率的に習得できる。
俺は加護付与スキルの副次的な恩恵により、ハイブリッジ家のみんなと確かな絆を結んでいるからな。
「バ、バカな……。数十対もの魔物の群れを一撃で麻痺させるとは……」
ベアトリクスが驚愕している。
その表情は、まるで化け物を見ているようだった。
失礼だな。
「おいおい。驚いている場合か? みんなはもう次の段階に進んでいるぞ」
「なにっ!?」
俺は視線でモニカと蓮華を示す。
「いくよ!」
「いざ、参らん!」
2人が魔力を開放する。
「術式纏装”雷天霹靂”」
「術式纏装”疾風怒濤”でござる!」
魔法の力を身に纏い、2人はゴブリンたちの群れに突撃していく。
「なっ……。なんなのだあの速さは……」
ベアトリクスは絶句する。
そりゃあ驚くよな。
チートの恩恵を最も多く受けている俺ですら、短距離におけるスピードでは彼女たちに及ばない。
今の彼女たちの動きは、目で追うことすら難しい。
麻痺で動けなくなっているゴブリンやオークを次々に葬っていく。
「ふっ。俺も負けてられんな」
キリヤも張り合うかのように戦闘に加わる。
ミリオンズの除いたハイブリッジ家の中で最も強い彼ではあるが、さすがにまだ纏装術は使えない。
しかし確かな実力により、1匹1匹にトドメを刺していく。
「……よし。俺たちも行くぞ」
「あっ、ああ!」
俺はベアトリクスに声を掛け、駆け出す。
そして、麻痺しているオークに向かって剣を振り下ろした。
「ハッ! セイヤァー!!」
オークの首が飛ぶ。
続いて数匹のゴブリンにも攻撃を加え、倒していった。
ベアトリクスも負けじと数匹のゴブリンやオークにトドメを刺していく。
「こっちは終わったぜ」
「私も全部倒したよ」
「拙者も問題無しでござる」
3人とも無事に殲滅を終えたようだ。
俺は全員を労ってから、ベアトリクスに声を掛ける。
「どうだ? 俺たちの強さは?」
「……認めないわけにはいかないな。貴様たちは強すぎる」
「そうだろう。もっと敬え」
「調子に乗るな! ……だが、我だけでは、ゴブリンやオークを全滅させることはできなかっただろう。礼を言う」
「気にすんなって。俺たちは仲間だろ? サザリアナ王国の発展を願う同志じゃないか」
俺は笑顔で言う。
するとベアトリクスは、どこか諦めたような顔になった。
「王女である我と仲間……か。貴様は本当に不思議な男だ。我が騎士団や高位貴族の人間ですら、ここまで我に気安く接する者はほとんどおらぬぞ」
「ん? もっと敬った方がいいか? ベアトリクス殿下が望むなら、頭を地に伏し、靴でも舐めましょうか?」
俺はわざとらしく言ってみた。
「いや、いい。貴様にそんなことをされたら、逆に恐ろしくて夜も眠れなくなる」
「ハハハ。冗談だよ。まあ、俺たちは対等な関係でいこうぜ」
俺は彼女に手を差し出す。
騎士爵の俺が、第三王女と対等?
自分で言ってて何だが、調子に乗りすぎか?
だが、ベアトリクスの反応は少し意外なものだった。
「そうだな。その方が気が楽だ。しかし、他の者の目もある。公式の場では少しぐらい敬うように」
「ははーっ! 承知致しました。ベアトリクス殿下!」
俺は大袈裟に姿勢を正し、敬礼する。
ベアトリクスはブルッと身震いしてから言った。
「やめろ。ここは公式の場ではないぞ。貴様にそんなことを言われたら、気味が悪いと言っただろう」
「わかったよ。じゃあ、いつも通りでいく」
俺は苦笑して言う。
ベアトリクスは呆れた様子だったが、どこか嬉しそうな顔をしていたのだった。
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