タカシとレインのマッサージにより、ナオミが追い詰められている。
ナオミはマッサージを制止するために、目隠しとヘッドホンを取ろうとしたところ、レインに止められてしまった。
改めてレインによって目隠しとヘッドホンは取り去られたものの、彼女からの叱責にナオミは思わず謝罪してしまう。
「ナオミ様。勝手に目隠しや魔道具を取ろうとされては困るのですよ。せっかくあなたのために、高い質のマッサージをしていますのに……」
レインがさらに苦言を呈する。
彼女の言葉は、事実ではある。
マッサージは触覚から感じるもの。
視覚や聴覚をあえて塞ぐことにより、質の高いマッサージを行うことができるのだ。
しかし実のところ、彼女には真の思惑が別にある。
「す、すみません……」
「それで、いったいどうされたのですか?」
「えっと……。マッサージを止めてもらおうかと思いまして」
「止める……? それはどうしてでしょう?」
「その……、ちょっと刺激が強いかなって……」
「刺激が強い? ご安心ください。私はこう見えても、マッサージの心得があります。多少刺激が強いように感じられても、実はそれがベストな力加減なのです」
レインがそう断言する。
彼女のマッサージの技術は、タカシのステータス操作で『マッサージ術』を取得したことによるものだ。
その道一本で生きていくことができるほどではないものの、そこらの素人とは一線を画する技量を持つ。
彼女が力加減を大幅に間違えてしまうことはない。
「で、ですが……」
「まだ何か? 具体的に、何か困ることでもあるのですか?」
「そ、それは、このままだと達し――ッ!!」
ナオミが言葉を途中で呑み込む。
危ないところだった。
ここでそんなことを口にしたら、間違いなく変態扱いされてしまう。
(うう……。レインさんは、良かれと思ってマッサージしてくれているのよね? それに、ハイブリッジ様だって……。こんな人格者が、邪な気持ちでアタシの体を触ったりしないはず。素敵な奥様たちもいらっしゃるし、アタシなんかに……)
ナオミは内心でそんなことを考える。
彼女が考えたことは、本来であれば概ね正しい。
レインは心優しい少女であり、新参者をいじめる趣味は持っていない。
タカシが絡んでいなければ、ただただ純粋にナオミの疲労を取り除くためのマッサージをしてくれたことだろう。
ナオミに誤算があるとすれば、レインにはタカシの欲望や目的を的確にキャッチし、サポートする心積もりがあったことだ。
一方のタカシも、加護付与という目的があるとはいえ、基本的には人格者と言って差し支えない。
魅力的な妻がたくさんいるため、性的な欲望を持て余したりもしていない。
ナオミに誤算があるとすれば、彼女自身の魅力に無頓着であったことだ。
若く元気でがんばり屋なナオミは、美人妻をたくさん持つタカシから見ても十分すぎるほどに魅力的な女性だったのだ。
「どうしたのです? 達し……なんですか? 続きを話してください」
「いえ……。なんでもありません」
(言えないよぉ……。まさか、イキそうだったなんて……)
ナオミは顔を真っ赤にして俯いた。
彼女の内心を知ってか知らずか、レインは話を続ける。
「そうですか。では、マッサージを続けてもいいですね?」
「は、はい……」
「念のため言っておきますけど、次は勝手に目隠しとヘッドホンを取らないようにお願いしますね。もしまた勝手に取ろうとしたら……。ねぇ? お館様」
「ん? ああ、そうだな」
そのときは、今度こそマッサージを中止した方がいいだろう。
それだけ、ナオミがマッサージによる快楽に戸惑っているということなのだから。
タカシはそんなことを思った。
だが、言葉足らずな彼の同意は、ナオミに別の印象を与えた。
(うぅっ。ハイブリッジ様の心象を害するわけにはいきません……。せっかく登用してくださったのに……。お母さんやお姉ちゃん、それに騎士団のみんなにも迷惑をかけてしまうかも……)
彼女はそんな無用の心配をしていた。
だが、それも仕方がないだろう。
タカシはあまり意識していないが、男爵である彼と平民であるナオミの間には、本来なら越えられない壁が存在するのだ。
仮にナオミがマッサージを中断してほしいと訴えれば、タカシはそれを叶えたはずだ。
しかし、ナオミはそこまでは口にしなかった。
結局のところ、ナオミは自分の感情を押し殺してマッサージを受けることになる。
「では、付けますね。くれぐれも勝手な行動はしないようにお願いしますよ?」
「は、はい。わかりました……」
レインの手により、ナオミに目隠しとヘッドホンが再装着されてしまう。
これで再び、彼女の視覚と聴覚は塞がれてしまった。
しかも今度は、勝手な行動をしないようにと念押しまでされている。
「ふふ。どうですか? お館様。私がお膳立てしましたよ!」
「お膳立てだと?」
「ええ。ここまで来れば、ナオミ様も拒否されないでしょう。思い切ってヤッちゃってください!」
レインが親指を立てながら言った。
これも全て、彼女からタカシへの忠誠心がなせる業だ。
ナオミをマッサージして性感を高めつつ、どさくさ紛れに関係を持てと言っているのだ。
「おい、それは――」
「大丈夫です! お館様に迫られて嫌な女性なんていませんから!!」
レインがそう断言する。
彼女の言葉はかなり大げさなものなのだが、ナオミに限って言えば概ね正しい。
羞恥や困惑の感情が強いものの、彼女は別にタカシのことを嫌っているわけではないのだ。
むしろ、雲の上の存在として憧れの感情すら抱いていた。
「ま、まぁ、適度にほぐしてやって終わりでいいだろう」
「そうですか? お館様がそうおっしゃるのであれば、私はそれで構いませんが……」
タカシには、どうしてもこの場で一線を越える決断ができなかった。
立場の違いを利用した極めて悪質な行為のように思えたのだ。
実際、ナオミがタカシに好意を抱いていなかったとすれば、断罪されて然るべきな行為であることは確かだ。
まぁ、それを言うなら、一線を越えずともマッサージで体に触れまくっている時点でアウトなのだが。
「よし。俺は僧帽筋や大胸筋のあたりを揉んでみるかな」
「では、私は下半身をマッサージしましょうかね」
「~~~~ッ!!」
何気なく再開されたタカシとレインのマッサージ。
その快感に、ナオミは声にならない悲鳴を上げた。
すでに出来上がった彼女の体は、通常のマッサージですら耐えきれるか怪しいものとなっていた。
(こ、こんなの……。耐えられるわけがないです……。こんなの続けられたら……。アタシ……)
ナオミは心の中でそんなことを考える。
だが、そうこうしている間にもタカシとレインの手は動き続けている。
「~~~~~~ッ!!!!」
こうして、ナオミは言葉にならない叫び声を上げながら、タカシとレインのマッサージを受け続けることになったのだった。
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