俺がミティを購入し、鍛冶工房に弟子入りしてから、半年以上が経過した。
奴隷商会からの借金は無事に完済した。
鍛冶工房の親方からも、一人前と認められていることができた。
行動に関する制約がなくなった俺たちは、さっそくラーグから遠出する。
俺たちが向かったのは――
「ようやく着いたな。ここがガロル村か……」
俺は眼前に広がる風景を観察する。
草花に囲まれた長閑な村だった。
住人はドワーフのみ。
何を隠そう、この村こそがミティの故郷なのだ。
「ミティ、大丈夫か?」
「はい……。大丈夫だと思います……」
彼女は不安そうだ。
いや、これは不安というよりも恐怖だろうか?
無理もないだろう。
彼女はこの村で、奴隷として売られたのだから。
「辛かったら、俺が1人で行ってくるぞ?」
この村を訪れたのは、俺とミティの結婚を彼女の両親に報告するためだ。
法的に必要な行為ではなく、あくまで個人的にケジメをつけるだけである。
2人揃って行く必要はない。
「いえ……大丈夫です」
ミティは気丈に振舞っている。
だが、彼女の表情から血の気が引いているのは明らかだ。
「遠慮せず、俺に任せてくれていいんだぞ?」
「大丈夫です。両親ともう一度話してみたい……。これは私の本心です」
「そうか……」
彼女の目は真剣だ。
普通、自分を奴隷として売った両親に会いたくなどないだろうが……。
彼女の場合、経済的問題から売られた。
別に、親子の愛情がなかったわけではない。
むしろ、本当にギリギリのギリギリまで売却をためらっていたほどらしい。
そんな経緯もあり、彼女は自分の両親に対して複雑な思いを抱えている。
「じゃあ、行こうか」
「はい……」
――結論から言うと、彼女の両親は良い人たちだった。
奴隷として売ったはずの娘が帰ってきたことに動揺したり、その主人である俺に複雑そうな視線を向けてきたりはしたが……。
最終的は俺の誠意が通じたらしい。
俺とミティの結婚を喜んでくれた。
「よかったな、ミティ」
「はい……。ありがとうございます、タカシ様……」
彼女は涙目だ。
長年のわだかまりが解けたのだろう。
「これからどうする?」
「どう……とは?」
「この村に住むのもアリかと思ってさ。ほら、ご両親も鍛冶師だろ? 鍛冶工房もあるわけだし、武具売却のツテだってある」
俺とミティは、これまでラーグの街に半年ほど住んでいた。
寝泊まりしていたのは、弟子入りした鍛冶工房の一室である。
節約のため、宿屋を利用したことはない。
それに、外食やショッピングもほとんどしてこなかった。
はっきり言って、ラーグの街にさほどの愛着はない。
「せっかくだから、ここでゆっくり暮らしてみるのも悪くないと思うんだけど……。どうかな?」
俺はミティに提案する。
彼女は目をぱちくりさせていた。
「私とタカシ様で……この村に住む……?」
「ああ。ミティのご両親も、それを望んでいるみたいだしさ」
「……そうですね」
ミティは少しだけ考える。
そして、決意したように言った。
「身に余るご配慮、ありがとうございます。タカシ様さえ良ければ……そうしたいです」
「よし……決まりだな!」
こうして、俺とミティはガロル村への移住を決めたのだった。
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