流華や桔梗がそれぞれの相手と戦っている頃――。
紅葉もまた、桜花七侍の一人と相対していた。
「……それで? くんとうを受けし力……とか言われても、馬鹿なおでにはよく分からないんだな」
「焦らずとも、今から見せてあげますよ」
紅葉は構え、目の前の巨魁を睨み付ける。
彼は武器らしいものは何も持っていない。
徒手空拳で戦うつもりのようだ。
そしてそれは、紅葉も同じように見えた。
「ふうぅ……」
「? どうした、子ども? 来ないならこっちから行くんだな。【大鬼拳】」
紅葉が動かないのを見て、巨魁が攻撃を仕掛ける。
巨体から繰り出される剛腕だ。
それは、紅葉の目の前の地面をえぐった。
「うっ!? なんて威力……それに、身のこなしも速い……」
「ちゃんと鍛えているんだな。この大きな体は、ぜい肉じゃなくて筋肉なんだな。力こそぱわー、というやつなんだな」
「なるほど……。動けるデブということですか」
「な、なんだと!? おでは、筋肉を落とさないために敢えて痩せないだけなんだな!!」
巨魁が激昂する。
彼の煽り耐性は低いようだ。
「やれやれ……。食事を節制できず、相手の言葉を受け流す自制心もない……。こんなデブを構成員にするなんて、桜花七侍の質も落ちたものですね」
「なんだとぉ!?」
紅葉の言葉を聞き、巨魁がさらに激昂する。
彼はそのまま、紅葉に攻撃を仕掛けようとするが――
「おやおや、戦いの礼儀作法すら知らないのですか」
「た、戦いの礼儀作法……?」
紅葉の言葉を受け、動きをピタリと止める。
相手の話をちゃんと聞く、純朴な性格らしい。
「ええ、そうですよ。上位者は下位者の全力を受け止め、その上で叩き潰す。それが強者の務めというものでしょう?」
「確かにそうだけども……。真剣な勝負に、そんな悠長なことは……」
「そうですか。私のような弱い子ども相手にすら、正面勝負では勝てないと。そう言えば、さっきも先制攻撃をしてきましたね。桜花七侍ともあろう人が、実は自分に自信がない雑魚だったとは……」
紅葉はにっこりと微笑み、巨魁を煽る。
彼は、その煽りを受けて体を振るわせた。
「おでは雑魚じゃないんだな! おでは桜花七侍なんだ! 山村のおっとうとおっかあの自慢の息子なんだな!!」
「そうですか。では、私の全力攻撃を、どうぞ受け止めてください」
「ふんだ! おでは強いんだな。お前のような子どもに負けるわけがないんだな!」
紅葉の挑発に乗り、巨魁はその場で仁王立ちする。
彼はそのまま、両腕を大きく広げた。
「全力で受け止めてやるんだな! 子どもなんかの大技、怖くもなんともないんだな!」
「そうですか。では……」
紅葉が全妖力を解放する。
彼女はタカシに与えられた加護(小)の恩恵を受けている。
各ステータスが2割向上している上、植物妖術もしっかりと練習し上達中だ。
そうは言っても、まだまだ未熟で桜花七侍レベルに通用するほどではないのだが……。
的確な挑発によって詠唱時間を稼げさえすれば……
「くらいなさい! 【吸魂花】!!」
「がっ!? な、なんだ、この蔦と花は……!?」
巨魁の巨体が宙に浮く。
中庭に生えていた草木が成長し、彼の体に絡みついたのだ。
「う、うっとおしいんだな……!!」
「ふふ。どうですか? 私の植物妖術は……」
「舐めるな、なんだな! おでの力なら、この程度……!!」
巨魁は絡みつく蔦を振り払おうとする。
しかし……
「お、おおぉ……!? 力が……抜けていく……?」
「無駄です。その草花は、あなたの闘気や妖力を吸い取って成長します。足掻けば足掻くほど、拘束力は強くなりますよ」
「ぐ……う……! あ、あえて痩せない系のおでがぁ……!!」
巨魁の体が少しばかりしぼんでいく。
植物によって闘気や妖力に加え、余計な脂肪までもが吸われているようだ。
「ふふ、どうやら私の勝ちみたいですね?」
「ぐ……! お、おおおおぉ……」
巨魁がその場に崩れ落ちる。
闘気や妖力を吸いつくされた彼は、そのまま深い眠りに落ちたのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!